血盟城から戻り、眞王廟の自室で鞄の中身を広げる。こっちに来ることになるだろうと思っていたから教科書やノートはあらかじめビニール袋にひとまとめにしとおいた。 「大丈夫、濡れてない」 しかし学校を出る時に貰ったバレンタインのチョコは濡れてしまい、包装紙の色が変わったり一部破けてしまったりしていた。乾かすためにそれを窓際に並べる。 コンコンと窓を叩く音がして「失礼しま〜すvv」とヨザックが入ってきた。 はぁと村田がため息をつく。 「ちゃんとドアがあるだろ」 「一応ココ、男子禁制ですからね」 パタンと窓を閉めて中に入ってくる時、窓際に置かれている濡れた包装紙に気がついた。 「あれ?猊下、コレって流行のバレンタイン、とか言うので貰ったんですか?」 「そ、意外とモテるんだよね、僕。あっちで」 ヨザックに背を向けたまま『あっち』を強調し、鞄をタオルでふく。 「ふーん」 ガサガサと包みを開ける音がして振り返るとヨザックが包みを開け、あーんと食べているところだった。 「ちょっと!何勝手に食べてるんだよ」 「へぇ〜こっちにはない味ですね。初めて食べたわ。何ですこれ?」 不思議そうにチョコを見て匂いを嗅いでいる。 「チョコレート」 「チョコレート?」 「そう。僕達の国では定番のお菓子だよ。だからそれ僕のだって」 ペロリと一箱食べてしまい、どんなチョコが入っていたのか見る間もなかった。 「後でお返ししないといけないんだから」 と言っている側からまた紙包みを開けている。 「ヨザック!!!」 村田はヨザックに近づいて包みを取り上げようとしたが、ひょいと避けてまた中のチョコを食べ始めた。 もう一度取り上げようとするとヨザックはポケットから袋を取り出し、村田に手渡した。 「こちらをどうぞ、猊下」 「何これ?」 袋の紐を解くと中に正方形の小さなクッキーが幾つか入っていた。 村田はくんと匂いを嗅ぐ。甘いバニラのような香りがする。クッキーよりしっとりしていてブラウニーのようだ。甘すぎず、フルーツが粒ではいっていて美味しかった。 「なかなかいけるでしょ」 「どうしたのこれ?」 「グリ江の手作りで〜す」 「君が作ったの??」 正直驚いた。あの剣を握る手がこんな小さなお菓子を作るとは。 「グリ江こう見えても料理得意なんですよ。将来の夢は素敵な旦那様に毎日お料理を作ることです〜」 くだらない話は聞き流し、村田はもう一つ口に入れた。 相手をしてくれない村田にヨザックが覗き込む。 「美味いですか?」 「まぁまぁ」 本当は市販しているものの何倍も美味しい。 「お口にあって光栄です」 にっとヨザックは笑って村田のチョコをまた食べ始めた。 「だから、それは僕のだって」 「物々交換」 「ヘ?」 「今日は好きな人同士でお菓子を交換する日でしょ」 「…違うよ。またどっからそんな間違った知識を仕入れてくるわけ?」 「あれ?似てね〜魔族3兄弟の三男坊が大騒ぎしてましたよ。陛下と交換するんだって。しかもその話の出所は大賢者様とかで」 村田はちょっと考える。そう言えば以前言ったような言わないような。つい反応が楽しくてからかった気がする……… 「今日は好きな人にチョコを上げて告白する日なの」 「なら…」 ヨザックが腰を屈めて村田と視線を一緒にする。 「好きです。猊下」 眼鏡の奥で村田が目を細める。真っ直ぐな青い瞳を向けてくるヨザック。 「お…」 「お?」 『俺も』と言う都合良い台詞を期待していたヨザックだが、もちろんあるはずもなかった。 「女の子が告白する日なんだよ、今日は」 「グリ江、気持ちはいつも女の子♪♪ですよ」 「…ばか?」 「ひ、酷いわ」 「まぁ、僕のチョコ食べちゃったし、1ヶ月後のホワイトデーに期待しようかな」 「何です、それ?」 「チョコのお返しにあげるイベント。好きならキャンデー、お友達ならマシュマロ、あれ?好きならマシュマロ、友達ならクッキーだっけな?」 「なら1ヶ月後じゃなくても今すぐ用意しますよ」 「そうそう、僕らの国じゃ、倍返しっていうからね。さっきのチョコ、結構高そうだし、君の給料と貯金でお返しできるかなぁ」 ホワイトデーの知識がないヨザックにわざと大げさに言ってため息をついて見せる。 「うっ」 「けど、楽しみにしてるね。僕の事…好きなんだろ」 意地悪く、にこっと笑ってみせた。 「いいっすよ!俺の全財産、全部つぎこぎますから」 「そう、がんばってね。僕、1ヶ月後に来れるかわからないけど」 「ひっどい!猊下」 「はいはい、用がないなら出てってね。あっ、ヨザック!なんでチョコ全部食べちゃったんだよ」 窓辺に置いてあったチョコは包み紙だけになってしまっていた。 「毒味です」 「地球で僕に毒を盛る奴なんていないよ。あ〜あ、まだ一個も食べてなかったのに」 キッとヨザックを睨みつけると村田の前に手を差し出す。その真ん中にチョコが一粒置いてあった。 奪い取ろうとして手を伸ばすとヨザックはポイッと自分の口にほおりこんだ。 「ああっ!!」 ヨザックはにやっと笑うと叫んでいた村田の口を素早く封じた。 半ば溶け出したチョコの甘味が口の中に広がる。 「んーーーっ」 後頭部をおさえられ、右腕を掴まれて身動きがとれない。 ヨザックの舌が口内を動き回り、チョコよりも濃厚なキスに村田はいつの間にか、ヨザックにもたれかかっていた。離れたヨザックがペロッと村田の唇をなめ、自身の唇も舐めあげた。その仕草に色気を感じてしまい村田は赤い顔をしたまま、ヨザックを睨みつけた。 「めちゃくちゃいやらしい顔、せんでくださいよ」 「…誰のせいだよ」 ヨザックはにっこり笑いもう一度、村田にキスをすると耳元で囁いた。 「んじゃ、責任とりますよ」 軽々と村田を抱えあげると、そのまま寝室へと運んで行った。 「物なんかより、お互いを交換〜なんて、いいイベントですね」 「それ、違うから」 結局のところ恋人同士には常日頃とやってることはかわらないのであった。 2008/4/28 遅くなりすぎましたがせっかく書いたのでとりあえずUP。お返しのホワイトデーは、村田が眞魔国に行かなかったということで。 ブラウザを閉じてください。
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