月の明かりがこんなにも明るいだなんて今まで知らなかった。

「何をそんなに眺めているんですか?」

肩に上着をかけられ軽く肩を抱かれる。少し冷えた体にコンラッドの体温が暖かい。

「月。綺麗だなぁと思って」

月を眺める横顔の方が数倍美しいと言ったら、有利はきっと赤くなりながら否定するだろう。

「そうですね」

「都会じゃ町の明かりが邪魔してこんなに月だけの明かりが明るいなんて思ったことなかったし、こんな数の星も見たことなかった」

うっとりとした表情で有利は頭上を見上げていた。暫く黙ってからまた話始める。

「俺が今まで生活してきた場所は電気はあるし、移動は電車や車があって楽だし、結構欲しい物は手に入って…凄い贅沢だったんだなぁって思うよ」

コンラッドも少し、その世界に居たことがあった。確かにこの国と違い豊かな国。

「そちらの生活の方が良いですか?」

「確かにさ、便利だけどこっちの世界でこんな風に夜、月を見たり星眺めたりすんのもいいなって思う。何か癒されるっての?けど......本当は今もどこかで争いが起こってて、魔族は人間を、人間は魔族を憎んでる。俺、考えるんだ。本当にこの国の王様なんて俺が出来るのかなってさ」

「陛下はこの国が嫌いですか」

ちょっと意地悪な質問だったかも知れない。聞かなくとも答えはわかっているのに。案の定、有利は慌てて否定する。

「嫌いじゃないよ、むしろ大好き。魔族の人達だって、出会った人間の人たちだってみんな好い人だし、でも」

有利の肩に置かれた手に力が入り、引き寄せられる。有利はそのままコンラッドにもたれかかった。

「王様になるって決めたのは俺なのにな。…不安になるんだ」

「前に16才になると自分の将来を決めないといけないという話、しましたよね」

「うん、コンラッドは魔族として生きる道を選んだんだろ」

「はい。でも今の陛下と同じ気持でしたよ」

驚いた顔で有利が見つめる。

「コンラッドが?」

「ええ。魔族を選んだ事に迷いはなかったけど、魔力を持たない俺が魔族の中でやっていけるのだろうかとか、差別をしてくる人達と上手くやっていけるだろうかとか、そりゃぁ色々悩みましたよ」

「で、どうだったの」

「見ての通りですよ。結局何とかなってます。だから陛下も、今は不安で心配な事、いっぱいあると思うけど、きっと大丈夫だよ」

コンラッドの微笑みで本当に大丈夫だと言う気になってくる。自分の信じている人が大丈夫と言ってくれるからその言葉を信じようと思うのかも知れない。

「何だか大丈夫な気に、ちょっとだけなってきた」

「人生経験の長い先輩が言うんですから」

ちょっと長すぎるとは思うが。

「俺がちゃんと王様になるまで、ちゃんとした王様になった後でもずっと側にいてくれよな」

「はい、陛下のお許しがあるならずっとお側に」

「へーか言うな、名付け親」

くすっとコンラッドが笑う。

「ずっと側にいるよ、ユーリ」

有利は満足そうにコンラッドにしがみついた。二人だけの小さな約束。月明かりが優しく二人を照らしている。

しかし、その約束が叶わなくなるのを今はまだ二人とも知らなかった。

 

2006/4/5

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