登校すると靴箱に白い封筒。それには相手の名前は書いておらず、

『放課後、校舎の裏に来て下さい』

とだけ書かれている。俺が放課後その場所に行くと、女の子が赤い顔をして待っていて、俺を見つけるとますます顔を赤くし、うつむいてしまった。

「この手紙、君がくれたの?」

女の子はうつむいたままでコクンと頷いた。
しかし女の子から何も話してこず、しばらく無言の時が流れる。

「あの…」

耐えかねて俺が話しかけると、女の子が小さな箱を差し出した。

「渋谷先輩!好きです」

「えっ!?」

驚いて受け取った俺にますます真っ赤になり女の子はおじぎすと走り去ってしまった。







「って言うのがバレンタインの憧れなんだよね〜」

「渋谷、前置き長すぎ。しかも今時少女漫画でもそんな設定ないよ」

「ちぇー村田は何だかんだ言ってもしっかり貰ってるしさ」

「義理だよ義理」

「俺なんて義理もない」

「まだこれから貰うかもしれないだろ」

「貰ってもお袋からぐらいだよ」

文句を言いながら公園を通り抜ける。

「ならもらいに行こうよ。本命チョコ」

「え?」

村田の方を向いたと同時にトンと胸を押されバランスを崩す。かろおじて村田の腕を掴むが支えになるどころか村田ごと噴水の中に倒れ込んだ。そして真冬の噴水は大きな渦を作って俺達を飲み込んでいった。


「なにすんだよ!」

「うー冷たい」

真冬に噴水に落ちるなんてたまったもんじゃない。

「陛下〜猊下〜お帰りなさいませ〜」

ギュンターが俺と村田にタオルを渡す。俺は頭を拭きながらきょろきょろと辺りを見回した。

「ありがとう」

「お部屋にお召し物を用意しております。風邪を引かれては大変です」

「コンラッドは?」

一瞬ギュンターの顔が歪んだ。

「コンラッドは近辺の村に視察に行っています。今日の夜には帰ってきます」

「そっか」

いつも俺が眞魔国に到着すると必ずいてくれたからちょっと物足りない。

「へなちょこ、やっと来たか」

「おーヴォルフ、元気だった?」

「元気だったかじゃないっ!早く部屋に行け」

ヴォルフは俺の手を握るとズンズンと歩き出した。

「うわっ、そんなに引っ張るなよ」

部屋に用意された服に着替えたと同時位にドアが開き、俺に向かってグレタがダイビングしてくる。

「お帰りっ、ユーリ」

「ただいまグレタ。元気だった?」

頭を撫でてやると「うん」と大きく頷いてぎゅっと抱きついてくる。ホントに可愛くて仕方ない。

「そうだ、ユーリ、コレ」

グレタは俺から離れると下げていたバックから袋を取り出し、「はい」と差し出した。

「これ、俺に?開けて良いかな」

グレタは大きく頷く。リボンをほどき中を取り出すと、動物らしきの顔をしたクッキーが出てきた。

「それね、グレタがグウェンに手伝ってもらって、作ったの」

「グレタの手作り?良くできてるよ。いただきます」

形はちょっと不格好だったが味は申し分ない。心配そうな顔で見ているグレタに
「美味しいよ」と答えると大きく万歳をして「やったぁ」と飛び跳ねた。

俺はもう一枚袋から取り出した。今度のはちゃんと砂熊の顔になっているクッキーだ。

「それはグウェンが作ったやつ」

こちらも美味しい。

「今日はね、大好きな人にお菓子をあげて大好きだよって言う日だっていうから、グレタ一生懸命つくったの」

娘からのバレンタインのプレゼントなんて感激だ!

「ユーリ大好き」

「グレタ…俺もだよ」

「ちなみに僕もグレタから貰ったぞ」

「うん。ヴォルフラムもユーリに作ったんだよね」

「えっ?」

急にふられたヴォルフが動揺する。

「あ、あれはだな」

「グレタ、もうヴォルフからもらったよ」

俺がいない間にすでにこちらのプレゼント交換は終わっているらしい。

「ヴォルフ、ユーリにあげないの?」

ちょっとグレタが悲しそうな顔をする。愛娘に悲しそうな顔をさせてしまってはヴォルフも出さないわけにはいかない。

「ほら、ユーリ。可愛い娘にあげるついでだからな」

「ありがとう」

渡された小箱を開けると丸い形のようなお菓子が4つ並べられている。嬉しいんだけど不格好な形に一抹の不安がよぎった。
俺がじっと見ているとヴォルフが怒鳴りだした。

「なんだ!早く食べろユーリ!」

「いただきます…うっ」

口の中を物凄い辛さが襲う。

「どうした!そんなに美味いか」

「ち…ちが…、水くれ」

差し出された水を一気にお菓子と一緒に飲み下す。しかしまだ口の中が辛くて、もう一杯水を飲む。 涙目になってしまった。

「そうか、涙がでるほど美味かったか。やはり僕の愛は偉大だからな」

心の中で殺す気かよと叫びながら、ケホケホと咳こんだ。

「で、ユーリからは?」

俺は意味がわからずキョトンとしていると村田が説明する。

「あ〜フォンビーレフェルト卿、僕達の国では1ヶ月後にお返しをあげるんだよ」

俺はハッとした。そうか、俺からもお返しあげなきゃいけないのか。しかし突然きちゃったからバレンタインの準備は何もしてなかった。村田の機転に感謝だ。
けどグレタはともかく、男にもお返しをあげるのか?

「あ、うんそうなんだ。グレタ、来月あげるからちょっと待ってね」

「本当、ユーリ。グレタ楽しみにしてるね」

グレタは嬉しそうに瞳を輝かせた。今からなにをあげようかと俺は色々なプレゼントを頭に浮かべた。

「僕は別にプレゼントでなくていいぞ」

「ヴォルフにあげるとは一言も言ってないが」

「そうだな。正式に結婚式をあげるというのでもいいぞ」

「つーか人の話し聞けって。しかも何だよ!結婚式って」

「僕からの愛に対して愛で返すのは当然だろう」

「なら俺にくれた愛を自分で喰ってみろ」

俺は貰った菓子を一つヴォルフの口にほおりこんだ。

「ぐっ!!ん〜〜〜!」

口を抑えたままヴォルフは部屋を飛び出した。

「フォンビーレフェルト卿の愛は届かなかったようだね」

村田が楽しそうに呟いた。


その後、ギュンターやツェリ様からもお菓子をもらい16年生きてきた中でバレンタインの記録を更新中だ。


夕食を終え部屋に戻ると珍しくヴォルフは自室で休むと言って部屋から出て行ってしまったし、(後で聞いたところによると、自分で作ったお菓子で腹を壊していたらしい)グレタはアニシナさんが何かの実験をするとのことで実験室に行ってしまった。

「なんか静かだよなぁ…コンラッド、いつ戻ってくんだよ」

窓の外をのぞくと白いものがちらちらと落ちていく。

「雪だ」

どうりで寒いはずだ。

「大丈夫かな…なんかあったとか」

一つ悪いことを想像すると次から次へと浮かんでしまい、窓辺をウロウロと歩き回る。

「ちょっと様子を見に行こっと」

「うわっ」

扉を開けたと同時に何かにぶつかり、後ろに倒れそうになる。大きな腕がそれを食い止めた。

「どうしました、そんなに慌てて」

「コンラッド!いつ帰ったの」

「たった今。陛下がお戻りだからお休みの前に一目会いたくてね」

「もうこんな時間なんだし、陛下って言うなよ」

「すみません、ユーリ。おかえりなさい」

「ただいま。そんでもってお帰り!うわっ、すごい服が冷たい」

「結構降って来ましたよ。明日は積もりますね。さぁ風邪を引きますからベットの中に入ってください」

コンラッドが支えていた腕を離そうとしたので、思わず服の袖を掴んでしまった。そしてそのままコンラッドを引っ張り暖炉の前に連れて行く。

「コンラッドこそそんなに冷えてたら風邪引くだろ。ちゃんとあったまれよ」

くすっと笑うと、コンラッドはつけていたマントをはずし、暖炉の横へそれをかける。俺はその間に毛布を持ってきて暖炉の前の敷物の上に座って体にかけるとコンラッドに隣に座るように合図する。

「では、失礼します」

にこにこと笑いながら俺の隣に座る。俺はかけていた毛布の半分をコンラッドにかけてやった。

「このほうがすぐあったまるだろ」

「ですね」

ぱちぱちと薪の燃える音が心地よい。視察にいった村の様子や、俺がいなかった間の眞魔国の様子をコンラッドは話してくれた。俺も地球での生活とか今日一日の出来事を話す。

「それであんなに机の上にプレゼントが山積みだったんですね」

「そうなんだよ、少しずつ食べないと。とてもじゃないけど今日一日じゃ食べきれない」

「ユーリはたくさんの人に愛されてるね」

すごく優しい顔で、しかも唐突にそんなことを言われて、どう答えていいのかわからずあたふたしてしまった。

「そ、そっかなぁ、でもお返しが大変だし、俺はやっぱり一番好きな人から好きって言われるのがいいんだけどな。あっ、だからって今回皆が用意してくれたのが嫌とかって言うんじゃないし、皆が俺のこと好きって言ってくれてんのはすごく嬉しいんだけど……」

そしてコンラッドと視線を合わせる。

「あんたは俺にくれないの?」

「じゃ、ユーリは俺にくれるの?」

まさかねだられるとは予想外。でもそうだよな。好きだと思ってんなら普通は何かもらえると思うよな。

「ごめん...突然こっちに来て何も用意してなかった。というか、日本じゃ女の子が男の子にチョコを渡して告白する日だからはじめっからコンラッドの分も、みんなの分も用意してないんだ」

「あっちでは女の子からチョコはもらえたの?」

痛い質問だ。俺は小さくため息をついた。

「全然、一個ももらってない。俺、もてないもん」

「良かった」

良かった?聞き間違いじゃないよな?なんて酷いこと言うんだ!!そう叫ぼうとしたらコンラッドが話を続けた。

「もし、ユーリが女の子に告白されて、その子と付き合うことになったら気か気じゃないだろうな」

悲しそうに笑うコンラッドの顔に俺はドキッとしてしまった。俺は膝を丸めて小さく話をする。

「告られても、付き合えないよ。だって見ず知らずの人から好きです、なんて言われても、俺の何を好きなんだかわかんないし、一方的に言われたって困るよ。さっき言ったじゃん。一番好きな人から好きって言われるのがいいんだって」

肩に腕を回されて、引き寄せられた。コンラッドが言ってくれる台詞を俺は期待して待っている。ドキドキと心臓が早鐘を打ち始めた。

「愛してる、ユーリ」

てっきり『好きだよ』といってくれると思い込んでいた俺は、それよりも大人の囁きに
一気に真っ赤になった。クスッとコンラッドは笑うと目じりにキスをして、今度は耳元で「好きだよ」と囁いた。

近づく顔にやられたぁと思いながら、俺は目をつむり、コンラッドのキスを受け止めた。




ベットで寝転んでいると、コンラッドが暖炉のそばにかけていたマントのポケットから何かを取り出して、俺の目の前に置いた。

「何?これ」

「開けてごらん」

紙袋に入った中身は小さな丸いお菓子で、その香りはいつも食べているものと同じもの。

「チョコレート?」

今日もらったお菓子の中でチョコレートはなかったから眞魔国ではチョコという存在自体ないのかと思っていた。

「眞魔国にもチョコがあったんだ!!」

味も確かにチョコレートだ。

「おいしい?」

「うん」

「ユーリ、Happy Valentine」

チュッと唇にキスを落とされる。

「Happy Valentine」

俺も笑ってコンラッドにキスを返す。

「ホワイトデー、ちゃんとするからさ。あんまり期待しないで待っててよ」

「別にお返しは...そうだな、ユーリ自身でかまわないよ」

「うわっ!!ちょっと何処触ってんだよ。今日はホワイトデーじゃないだろ!!」

「今日はバレンタインのプレゼントがユーリということでvvv」

「それってもう、やったじゃんか!!」

抵抗むなしく、俺は再び、コンラッドに抱きすくめられた。
まっいいか、Happy Valentine Dayだから、とコンラッドの背中に腕を回した。


2008/2/14

ちょっと12時回ってしまいましたがHappy Valentine!!
あーこれでヨザケン書きたかったけど時間がなかった。そのうち書きます。


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