「ゆうちゃ〜ん、健ちゃん迎えに来たわよ」

「今行く〜」

下に聞こえるように大声をだし、ダウンを着こんでマフラーを巻く。一階に下りると村田とお袋は楽しげに世間話などをしていた。村田も俺と同じ様な格好だ。

「気をつけてね〜」

寒いからいいというのにお袋は玄関先まで出て俺達を見送っていた。

「やっぱり夜は冷えるや」

歩きながら村田はハーッと白い息を吐く。暖冬と言われているがやはり夜は冷え込んでいる。

「だよなぁ。ホントさむ〜」

午後11時、俺達は都内の神社に年末年始のお参りに行くため駅に向っていた。
すいている電車に乗り込み、空いていた席へ座る。

「でもさぁ、別に都内に行かなくても近所で良かったんじゃない?」

「俺も最初はそうしようと思ったんだけどさ、勝利が一緒に行くとか言い出して、そしたらお袋もついてくっていうし、挙句家族でお出掛けってことに話が進んでったから、もう村田と約束してるって言っちゃったんだよ。もしかして、何か予定あったのか?」

「特にはないけどね。ま、たまには夜遊びもいいかな」

「夜遊びじゃないって」

「でもさこういうイベントでもないと夜中の外出なんてなかなかしないもんね」

「確かにな。村田んとこ両親は?」

「珍しくお休みが取れて家でゆっくりしてるよ」

「いいのか?家族団らんしなくて」

「いーのいーの。それにたまには2人きりにしてあげなきゃね」

村田の両親はお互い仕事を持っていて、ほとんど家に戻らないらしい。うちとは対照的だ。俺んちはお袋が専業主婦だし、親父が出張ってのはバブルがはじけてからてんでないから毎日家に帰ってくる。

電車を乗りかえ、神社の駅で降りると、もう夜中だというのに物凄い人の数だった。

「凄いなぁ」

「毎年、お参りの数は全国でも1、2を争うからね」

鳥居の下を通りしばらく中に進むと列が進まなくなった。ところどころ交通整理のために警察官が立っている。寒いのにご苦労様です。

「もしかしてここから待つの!」

「はは、そうみたい」

「嘘だろ!」

まだ本堂前まではかなり距離があったはず。

「到着の前に年が明けちゃいそうだね」

あちゃと呟いて俺はマフラーをしっかりと首に巻き直した。
沢山の人が様々な思いや願いを抱えて集まってきている。家族連れもいれば恋人や友達ときている人々もいる。

「どうしたの渋谷?」

黙り込んでしまった俺のダウンの袖を引っ張り、少し進んだ列に合わせて歩き出し
た。

「いや、すげー人だなぁと思って」

「はぐれないでくれよ。渋谷、携帯持ってないんだから」

毎回水の中からしか移動出来ないという妙な体質(?)のせいで一度携帯をダメにしてしまった後、俺は携帯を持つのを止めてしまったのだ。

「携帯って無かったら無かったでどうにかなるよな」

「けどあったらあったで便利だろ」

「まぁな。でも眞魔国にはないよ」

「携帯どころか電話すらないけど」

「俺さ、眞魔国にいくまで、自分達の生活が当たり前って思ってたから、電気もガスもない所の生活なんて考えた事も無かった。テレビも野球だって無いんだぜ、信じらんないよな」

「でもあの国ではあれが当たり前なんだよ」

「うん。そうなんだよな」

列が少しずつだが止まらずに動き始める。村田は俺のダウンの袖を握ったままだ。

「もっと皆の生活を楽にしてあげたいと思うけどさ…」

「思うけど?」

俺は星の見えない空を見上げた。眞魔国では信じられない位の星の数がまるで降ってきそうなのに。

「今の地球みたいに文明が発達し過ぎて環境汚染とかの問題が起きたりしたらやだよな」

一瞬驚いた顔をした後、村田は笑い出した。

「な、なんだよ!人がまじめに話してんのに」

「ごめん、ごめん。けどあの国がここまで発展するのはまだまだ先のことだよ」

「それはそうなんだけどさぁ」

村田はフッと優しく笑った。

「眞魔国のことちゃんと考えてくれてるんだね。ありがとう」

「あったりまえだろ」

だって俺の大切な国なんだから。

「あっ、一気に進んだ、行こう渋谷」

村田は俺の手を握って歩き出す。男同士で手握るのってどうよ?そういえばコンラッドも良く外に出ると手を握ってくる。俺が言おうとするとその前に村田が口を開いた。

「このまま賽銭箱の前まで雪崩込むからね、手、離しちゃ駄目だよ」

「うっわぁ」

もの凄い人の波に揉まれ、俺は村田の手を握り返す。村田の言うとおり手を離したらはぐれてしまう。

「渋谷、この辺でいいよ」

丁度真ん中辺りで立ち止まり、用意していたお賽銭を前の人達にあたらないよう放り投げ願い事を心の中で呟いた。そして次から次に押し寄せる人の間を抜けだす。

「ふぁ〜凄い人だなぁ」

「だね。眼鏡潰されるかと思った」

俺の時計のアラームが午前0時を知らせた。俺たちは顔を見合わせる。

「明けましておめでとう、村田。これからもよろしくな、大賢者様」

「明けましておめでとう、渋谷。こちらこそよろしく。魔王様」

俺達は見つめあってクスッと笑う。きっと知らない人が俺達の会話を聞いたら??だよな。けどホントの事。

「渋谷は何をお願いしたの?」

「もちろん家庭円満、眞魔国の繁栄とあと一個は…内緒。」

「可愛い娘もいるしツンデレ婚約者と結婚が決まればますます家庭円満だね」

「そっちの家庭円満じゃねーっての。しかも結婚し・ま・せ・ん!そういう村田は何をお願いしたんだよ」

「えーっとね、ムラケンズがM―1に出れますようにとかかな」

「つーか、M―1終わったばっかだし」

「年末に出れるといいよね、二人で」

「俺とかよ!あーっもういいや、この話はヤメヤメ。おみくじ引こ」

俺達は100円を払いおみくじを引いた。番号を巫女に伝えるとそのおみくじをくれる。

「うっ、微妙な中吉」

「やった渋谷、僕、大吉だ」

「何々、病気知らず、待ち人遅れる。引越は良。失い物後で出て来る。見合い良好。本当に微妙だな。村田のは何て書いてあるの」

「取り合えずは全部良好ってとこかな」

「あっ、すげー、村田の恋愛成就するだって」

「うーんそれは当たらないかも」

「何でわかんねーじゃん」

「僕の好きな人はもう好きな人がいるみたいだからね」

俺は少し驚いた。村田に好きな人がいたとは。

「初耳」

「あれ?前に言ったろ。水族館で」

そういえば気になる子にフラれたからって代わりに水族館に行ったんだ。

「でもフラれたって言ってたろ。もしかしてその後進展あったのか?まさか告ったとか」

なかなかやるなぁ、眼鏡君と感心する。

「告ってないよ」

「じゃ、わかんねーじゃん。相手がどう思ってるのか」

「多分、嫌いじゃないと思うよ。むしろ好きなんじゃないかな」

「ええっ!脈ありなのに何で告らないんだ」

「まっ、色々あってね。上手く邪魔されるいうか、僕の知らないうちにおいしいとこもっていく奴がいるんだよね」

何か思い出したのか、うつむいた眼鏡がキラリと光った。

「まぁチャンスがあったらね、僕も行動に出るよ」

なかなかに男らしい台詞を言ってニコッと村田は微笑んだ。

「そっか、上手くいくといいな、頑張れよ」

色々大変なんだな。しかし親友としては応援したい。

「この帰り道に休憩所があるから何か暖まるもの食べようか」

「うん。俺、焼きそば」

「じゃ、僕はもつ煮」

「しぶっ、いくつだよ村田」

行きと違い、スムーズに進んで行く先に休憩所がある。俺達は少し温まってから、電車に乗り込んだ。いつもは寝ている時間なだけに欠伸が続いて出てしまう。村田も俺につられて欠伸をしていた。
村田はそのままうちに泊まる事になっていたからきっとすぐにはお互い眠らないはず。新作のゲームも持ってきてもらってるし。
家に帰るとお袋が起きていてお雑煮と作って待っていてくれた。外は寒かっただろうと風呂まで沸かしてくれていた。

「良く出来たお母さんだよね。美子さん」

「人のお袋を名前で呼ぶなっちゅーの」

「温まるから2人共一緒に入って来ちゃいなさい」

「村田、先入れよ」

「一緒入ればいいだろ。その方が雑煮も早く食べれるし」

「狭いだろ」

「どうせすぐに出るんだからさ」

結局、2人一緒に風呂に入る事になった。銭湯ならまだしも、狭い所に無理に野郎二人で入らなくてもいいのに。

俺が湯船に浸かっているとちょっとずれて、と村田まで入ってきた。

「だーっっ狭い」

俺は湯船に背中をくっつけて村田と向き合う形になる。

「何で眼鏡、風呂の中でかけてんだよ」

眼鏡が曇っていて村田の瞳が見えない。

「だってないと困るだろ」

「風呂の中じゃ困んないだろ、別に」

「風呂だったらね」

瞳は見えないのに眼鏡の奥がにっと笑った気がした。とその瞬間狭い風呂の中に小さな渦が出来、見る見るうちに大きくなるとものすごい吸引力で体が引っ張られていった。これってもしかして〜新年早々スタツア〜かよっっ!!

 

2007/1/10

続いています。続きは眞魔国バージョンへ。近日UP予定です。

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