突っ伏したままの渋谷の髪の毛をつっと痛くないように引っ張る。
「なに?」
充血した瞳を僕に向けてきたけど、その上目使いの顔が誘ってるんだよ、なんて言ったら真っ赤になって怒るんだろうな。
喜怒哀楽が直ぐに顔にでるけどそれも渋谷の魅力の1つだし、彼の周りの人達もそんな渋谷に惹かれている。ライバルは多いんだよ、本当に。
僕が大賢者だと告白する間もなくいつのまにやら魔王になっちゃってるし、挙げ句の果てに彼女を飛び越し、婚約者まで作ってしまっている。しかも美少年。
「取り合えず来週も泊まりにくるんだろ」
「うーん」
多分渋谷の頭の中では追試の勉強と僕の家にある新作ゲームとが天秤にかかっているはずだ。
「まだ追試って決まったわけでもないし、もし本当に追試だったとしてもどうせ僕の家で勉強するんでしょ」
渋谷は顔を上げると「お願いします」と頭を下げた。やっぱり可愛い。
「んじゃ旅行の場所も決めちゃおう。やっぱりスイスがいいよね」
「それはダメ。大体足代出すって言ってもちょっとそこまでって金額じゃないだろ。絶対国内」
一般庶民の味方、第27代魔王陛下は断固として受けいれてはくれなかった。
それ以上僕も我を通して、じゃ、行かないといわれても困るので、今回は折れることにする。
「じゃ国内でもいいか」
「温泉でのんびりがいいな」
「まだ干からびる年じゃないだろ」
「いーんだよ。温泉好きなんだから」
まぁ何処に行こうが渋谷と一緒に行けて、彼が満足なら僕も満足なんだけどね。地球で邪魔が入らない内に一気に差を縮めなくちゃ。
本当にライバルは多いんだよ。
僕はにっこりと渋谷に笑いかけた。