「コンラッド、ちょっといい?」
「?、何ですか」
廊下を歩いていたコンラッドを見つけ有利は声をかけた。
「あのさ、時間がある時でいいんだけど俺に乗馬教えてくれないかな」
「いいですよ」
「何時が空いてる?」
「陛下のご命令ならいつでも」
「これは命令じゃないよ。俺からお願い。それに陛下って呼ぶなよ」
ちょっとむくれて有利が答えた。
「なら昼食後はどうですか?」
「うん」
「じゃあ、食事が終ったら、馬場に行ってて下さい」
「よろしくな」
食後、有利が馬場に行くとすでにコンラッドが馬を連れて来ていた。
「ゴメン、待ったか?」
「いえ、今来たところですよ」
「やっぱり大きいよなぁ」
連れて来てくれた馬を撫でながら、有利の身長を軽くぬく馬を見上げる。その馬に軽々とコンラッドはまたがる。
「ユーリ、はい」
手を差し出され、その手を掴むと引っ張りあげられた。そのまま練習場へ行くのと思っていたが、馬は城外へと進んで行った。
「どこ行くんだ?」
「せっかくいい天気だからね。外で練習しようと思って」
そして連れてこられた場所は少し小高い草原だった。暖かい日差しが気持ちいい。
「いい景色だなぁ」
コンラッドが馬を降り、もう一頭連れていた馬を木に繋ぎに行く。
「まずは少し歩いてみて感覚を掴みましょう」
手綱を持ってくれているため馬が暴れることもない。
「手綱を持ってくれてれば怖くないんだよな」
「馬は乗っている人を良くみていますから、怖がったりしていると馬も怖がりますよ」
「へー」
「少し駆けてみましょう。太股で馬の腹を叩いて下さい」
両足で腹を叩くが馬はそのままのペースを崩さない。
「もっと強く叩かないと伝わりませんよ」
「えいっ」
さっきより力をこめて叩くと馬が少し小走りになった。
「早っ!」
「そんなにはスピードはでていないよ。馬が駆ける時、意識して腰を上げるようにしてごらん」
「こんな感じかな」
馬の上下に合わせて、一緒に体を上下させる。
「そうです。止まる時は手綱を真後ろに引いて。片方に力がはいってしまうと馬が向きを変えてしまって止まりませんから」
言われた通り手綱を引くと馬は止まってくれた。
「コツが掴めました?」
「んーやっぱグゥエンみたいになるにはまだまだだな」
「グゥエンダルの馬は彼が幼少の頃から一緒ですから絆が強いんでしょう。彼の馬は彼を信頼してますから」
「なんかかっこいいよな、そういうの。コンラッドの馬は?」
「一応信頼関係は掴めていると思いますけどね。じゃあ少しその辺を散歩しましょう」
コンラッドは木に繋いでいた馬に乗り有利の側に駆けてくる。帰る頃にはある程度までは乗りこなせるようになっていた。
「今日はありがとな、コンラッド」
「どういたしまして。ユーりの頼みだったら何なりと」
誰もが見惚れてしまう笑顔でニッコリと微笑む。
「普段は使わない筋肉を使ってたからしばらくは筋肉痛になるかもしれないな」
「太股に力が入るもんな。おしり痛いし」
「お風呂で良くほぐして下さいね」
「陛下〜どこですかぁ」
「あ、ギュンターだ。ったく、恥ずかしいから大声で探すなっての。近所迷惑だから行くな。今日はありがとな、コンラッド。今度お礼するから」
「はい、はい」
走り出すその後ろ姿をコンラッドは見送っていた。
城内の見回りをしていると馬場から声がする。
コンラッドが近付くと有利が馬の鼻を撫でてあげていた。
「こんなに遅くに何やってるんですか?」
「うわっ、コンラッドか脅かすなよ。今日こいつに練習させてもらっただろ。こいつにもお礼しなきゃと思って」
有利がポケットから人参を取り出す。馬は有利の手から美味しそうに食べ始めた。
「可愛いよなぁ」
「城内とはいえこんな遅くに一人で出歩いたらダメですよ。そろそろ戻りましょう」
「ん。おっとと」
有利がよろけたのでコンラッドがその体を片手で支える。
「怪我でもされたんですか」
「ははっ、違うよ。筋肉痛でさ。野球じゃなかなか使わない筋肉だからな、太股は。って、わぁ」
有利の体が持ち上がる。
「ちょっと、コンラッド歩けない程、酷くない」
「途中で転んで怪我したら大変だから。勝手に連れだして怪我させたって!ギュンターやヴォルフに怒られて外出禁止になったら困るでしょう」
「別にコンラッドのせいじゃないだろ」
「俺もユーリに怪我をされたら嫌だしね」
そう言われてしまってはもう降ろせとは言えなかった。
「あれ?」
ドアの前で有利を降ろすがドアの形が違う。コンラッドはポケットから鍵を取りだし扉を開けるとまた有利を抱き抱え中に入っていった。
「えっ?ここってコンラッドの部屋?」
「ご名答」
ゆっくりとおろされベットに座らされる。意外と片付いているというより殺風景。
「シンプルイズベストだな」
「殆んど寝るだけだからね。ここは仮眠室みたいなもんです。はい」
有利は小さい丸い瓶を手渡される。
「何?これ」
「筋肉痛を軽くする薬ですよ。これを塗れば明日には良くなります」
「即効性なんだな。臭いは特にしないけど」
蓋を開けて鼻を近づけくんくんと臭いをかぐ。
「薬草からつくられているんで害はないですから」
「ふーん」
その後、沈黙が流れる。あれ?えっとここってコンラッドの部屋のベットの上でしかももう深夜も遅くて…なんかヤバイ雰囲気?
「じゃ、じゃあ俺もう部屋、戻るなっ」
赤くなりながら慌ててベットから立ち上がる。
「痛いっ」
さっきより酷くなっている筋肉痛に違う痛みが混じる。
「大丈夫?ユーリ」
「何か筋肉痛とは違う痛みが走った気が…」
コンラッドが有利のスボンを脱がす。抵抗する間もない。
「多分これでしょうね」
有利の内股に内出血の痕が広がっている。
「ええっ!いつの間に」
「時間が経ってからでてきたんですね。お風呂に入って温めると血液の流れが良くなりますから。取り合えずさっきの薬を塗っておきましょう。打ち身にも効きますから」
コンラッドは適量を掌に取ると立ったままの有利の内股に掌をあてた。冷たい液体の感覚に体がびくっと反応する。
「すぐ暖まりますよ」
まるでマッサージを行うかのようにユックリと掌を上下に動かしていく。少しするとぞわぞわと違う感覚が有利の背筋を這上がってきた。有利が掴んでいたコンラッドの肩に思わず力が入る。ぎゅと目をつむっていてその感覚に耐えていたためコンラッドの口郭が上がったのに有利は気がつかなかった。
「ユーリ、そんなに肩、掴まないで。服が皺になるから」
「あっ、ご、ごめん。も、いいからっ」
慌てて手を離す。くすっと笑うと耳元でコンラッドが囁く。
「顔が赤いですよ」
低い、心地よい声も今の有利には快感の一部となってしまう。恥ずかしそうに、でもしっかりとコンラッドを見つめる瞳はすがりついてくるようで庇護欲にかられてしまう。
「まだ痛みますか?」
「大丈夫…」
コンラッドは有利の髪をかきあげると額にキスを落とした。何よりも大切で誰よりも愛しい存在。吸い込まれそうな黒い瞳を覗き込む。
「ユーリ、昼間のお礼、今もらっていい?」
赤い有利の顔がさらに赤くなる。有利は首を縦に振った。
「おはよう、ユーリ」
既に着衣を着けたコンラッドが爽やかに話しかけてくる。
「……ぉはよ」
昨日の夜とはうって変わって、誰から見ても爽やか好青年である。同意とはいえ昨晩首を縦に振ったことを有利は少し後悔していた。薬のお陰で足の痛みはなくなっていたけれど今朝は別の箇所が痛む。
「部屋まで連れていこうか」
「自分で帰れるよ」
抱き抱えられてるとこをヴォルフラムに見つかったら何をされるかたまったものでもはない。慌てて服を着込み、ベットから降り立ち、身支度を整えた。
ちょっと歩くと腰に響くが、なるだけ顔に出さないよう平静を装う。
「じゃ、自分の部屋に戻るから」
扉に手をかけた有利にコンラッドが囁いた。腰にくる低音で。
「夜まで腰が痛むようならまた薬をつけてあげるよ」
有利は真っ赤になって「結構ですっっ!」と叫んで部屋を飛び出していった。
そんな姿も可愛らしく、一人残された部屋でコンラッドはつい吹き出してしまう。「坊ちゃんは素直だからからかいがいがあるよなぁ」と言っていたヨザックにその時は陛下で遊ぶなと注意したコンラッドだったのだが人のことは言えない。
ベットサイドに置きっ放しにされていた薬をコンラッドはポケットにしまい、部屋を出て行った。
「うーっ腰イテェ....」
「どうしたユーリ?転んだのか?」
まさか本当のことをいうわけにもいかず、乗馬で筋肉痛になったとヴォルフラムには嘘をつく。
「へなちょこだから、乗馬ぐらいで筋肉痛になるんだぞ」
「.....へなちょこ言うな」
それでも心配はしているようだ。眉間に長男と同じ皺がよる。
「確か筋肉痛によく効く薬をウェラー卿が持っていたぞ」
「いや.....遠慮しとく」
朝の台詞を思い出して赤くなる。
「何だ?頭まで痛いのか?顔が赤いぞ」
「なんでもないっ!!」
今日はおとなしく部屋でゆっくりしよう。
コンラッドの部屋に置き忘れた薬は(残念ながら?)夜使うことはなく、コンラッドから手渡された。
「使うときは俺が塗ってあげますからね」
というまたもや低音の声で耳元でささやかれて。
Fin
乗馬は本当に太ももに力を入れないと馬が走ってくれないので、
すごい筋肉痛になります。昔、ちょろっとだけ乗馬をしていたのを思い出して書いてみました。
2005/12/23
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