「コンラッド、いる?」 コンラッドの部屋のドアをノックして、中からの返事がないためそのままドアノブを回した。ギギーッと蝶番の音が静まりかえっている廊下に響く。 有利はそのまま中に入りこんだ。 「不用心だよな。鍵もかけないで」 部屋の中を見渡すが主はやはり出掛けている様だ。 蝋燭の明かりはついているからきっとすぐ戻って来るだろう。ベットの側の椅子に腰掛けて、毎日少しずつ読んでいる子供向けの小説を開いた。 この部屋で夜寝る前に本を読むのがここ最近の日課になっている。 有利が本を読んでいる間はコンラッドも側で静かに本を読んでいる。有利が読み方や意味が判らないと側にきて丁寧に教えてくれた。この静かな空間が有利はお気に入りだった。 「あれ、陛下来てたんですか」 「こんな夜更けに陛下って呼ぶな」 「すみません、ユーリ」 「どこ行ってたの?」 コンラッドが上着を脱いで片付けながら答える。 「グウェンダルに用があってね。あいにく、鍵がかかってたから留守だったけど」 「鍵といえばさ、この部屋いつも鍵かかってないじゃん。不用心だよ」 有利の側にコンラッドが近付く。 「特に取られて困るようなものはないしね。それに鍵をかけてたらせっかくユーリが 訪ねて来てくれても、中で待てないでしょう。今みたいに、ドアを開けたらユーリがいるっていうシチュエーションがいいのに」 「シチュエーションって…けど俺、前にこの部屋の鍵、もらったじゃん」 「でもユーリは俺が留守の時、合鍵を使ってまで中には入らないでしょ。だから鍵はかけなくて良いんですよ。ここは」 「んじゃさ、見られて困る物とか無い訳?」 ちょっと期待した瞳で有利が身を乗り出す。しかし、 「ありませんよ」 と爽やかな笑顔で返されてしまう。 「期待外れって顔してますね」 「だってさ、成人男性だったらちょっとそーゆう本とかビデオのひとつやふたつ持ってるもんじゃないの?」 むしろ成人男性じゃないほうが持っている確率は格段と高いだろうが。 「困ったなぁ」 まさか持っていない事を不思議がられるとは思わず、コンラッドは苦笑いをしていたが思い付いたような顔をして、内緒話をするように有利の耳元に唇を近付けた。 「見られて困るモノがひとつだけありました」 そして扉に向かい鍵をかけて戻ってきた。 有利はすでに本を閉じてベットの上にちょこんと正座し、コンラッドの動きを目で追っている。本棚の裏とか、はたまたクローゼットの中か、隠している物がでてくるのを期待しながら待っていた。 しかしコンラッドはベットに座っている有利に真っ直ぐ向かってくる。コンラッドの動きを追っていた有利はもしやベットの下か枕の下に、隠されているのかと辺りをキョロキョロ落ち着きなく見回し始める。 その横を見ていた顔をコンラッドの両手が修正した。 少し驚いた顔がコンラッドを見上げる。その顔も可愛くて、コンラッドはクスッと笑うと有利に口づけをした。 「な、な、何っ!」 顔を真っ赤にして後退り、ベットから落ちそうな有利の足首を掴んで辛うじて落下を食い止めた。 「危ないよユーリ」 「あ、ありがとう、じゃなくて、何すんだよ、いきなり!」 「ですから、見られて困ることをするので鍵をかけてきたんですよ」 「???見られて、困る…コト?」 何をコンラッドが言っているのかすぐに理解出来ず、有利の頭の中は?が飛び交っている。 「ユーリの可愛い仕草とか、顔とか、声とか、鍵をかけないで誰かに見られでもしたら嫌ですから。さっきユーリも鍵をかけろって言いましたし」 ますます有利の顔が赤くなる。 「そう言う意味で言ったんじゃないぞ!!」 「でも、嫌でしょ。最中に誰かが入ってきたら」 「絶対嫌っ!!」 「でしょ。俺もです」 ニコニコ微笑みながら、ベットに乗り上げると有利の頬に軽くキスを落とす。 「ユーリは俺の大切な宝物です」 本当であれば鍵をかけて部屋に閉じ込め、誰の目にも触れさせたくない。 けど彼を束縛するのは誰も出来ないから。愛しい気持ちを込めて、今度は唇にキスを落とす。 「なんか誤魔化してねぇ?」 照れながらコンラッドを上目使いに睨み付けてる。 「まさか。大好きだよユーリ」 コンラッドは有利をギュッと抱き締めた。大好きな恋人の腕と優しい言葉を振り払えるはずもなく、有利はコンラッドの背中に腕を回した。 「宝物だってんなら、大事に扱えよ....」 「はい。ユーリ」 くすくすとお互い笑いながら、唇を重ねていった。
2007/8/28 ブラウザの閉じるで戻ってください。 |
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