「うー冷たい」 キャッチボールの後、外から戻ってきて手を洗う。 部屋に用意されていた水で手を洗うとコンラッドがタオルを渡してくれた。 「サンキュー。やっぱ冬の水は冷たいや」 「温かいのを用意させましょうか」 「へーき、へーき。けどほら凄い冷たいだろ」 有利はコンラッドの手を握った。 「ホントに冷たいね」 その手を包んでコンラッドは顔まで持ち上げると、チュッと手の甲に口づける。 「わぁっっっ!!!」 有利が慌てて手を振りほどいた。 「な、な、何すんだよいきなり!!」 真っ赤になって動揺する有利が可愛くて笑みがこぼれた。ちょっとしたことで過剰に反応するさまが新鮮で仕方ない。 「顔、真っ赤だよ」 「誰のせいだよ!うー一気に暑くなった」 バタバタと手で顔を仰ぐ。 「ユーリ、手を出して」 「いたずらしねぇ?」 上目遣いで警戒しているが、その仕草がまた煽っているのかのようだ。 「何にもしないよ」 と微笑むと素直に両手を差し出してきた。もう少し警戒心をもってもらいたいとは思うのだが、拒否されてもつまらないし、と勝手なことを心の中で呟いたりする。 コンラッドはポケットから小さなケースを取り出すと蓋を開け指先にそれをつけた。 そして差し出された有利の甲に塗る。 「クリーム?」 「母から貰ったんです。冬は手が荒れるからと」 指先で甲に丸をかきながら塗り込んでいく。 「良い匂いがするね」 有利の右手の甲を両手の指先でマッサージしながらクリームを浸透させる。甲から移動し今度は指を一本ずつ塗っていくとくすぐったいのか有利が手を退こうとした。 しかしコンラッドはその手を離さなかった。 「も、いいよ、自分で塗れるし」 「ちゃんと塗り込まないと、がさがさになっちゃいますよ」 「ならほんと、自分でするって」 伏目がちにして目を合わそうとしない。その頬がほんのり色づいている。 「感じちゃいました?」 耳元に低音で囁く。もちろん有利がこの声に弱いのがわかっていてわざと耳元に唇をよせる。 「な、な、なにいってんだよっ!!」 ますます顔を真っ赤にさせて、離れようとする腰にコンラッドは手を回した。 「コンラッド!!」 「いや?」 「嫌とか嫌じゃないとかじゃなくて、ちょっと!手っ」 腰にまわされた手がお尻におりてくる。 「嫌じゃないんだ?」 にこっと笑い、反論しようと顔を上げた有利の唇を自身の唇でコンラッドは塞いだ。 「…………ン、ふぁ」 顔を離すとガクッと有利が膝を折りコンラッドにしがみついた。 「ベッド行く?」 耳元で囁くと有利は首を振る。 「汗かいてるし」 「じゃ」 「うわっ」 コンラッドはひょいっと有利を抱えてバスルームに向かった。 普段は魔王専用の大浴場を利用しているから有利の部屋についているバスルームは予備的な利用しかしていない。まぁ予備的といっても今回のような利用が多いのだが。 「お湯入ってないだろ、まだ昼間だしっ」 あたふたしながらなんとかそっちの方向から逃れようと暴れる有利の顔にキスを落として静かにさせる。 「大丈夫だよ」 バスルームに入りバスタブの横におろされた有利はコンラッドの「大丈夫」の余裕の言葉を知ることになる。 「なんでお湯沸いてるの…」 「侍女に頼んでおいたんです。陛下が運動した後汗を流したいだろうからって」 「別に汗流すならここじゃなくて大浴場があるじゃん」 「陛下がこちらにいらしたのは2ヶ月振りで、ヴォルフラムとグレタに一週間陛下を占領されて、やっと二人きりになれたんだけどな」 そんなことをコンラッドから言われ、うっと言葉に詰まってしまった。 普段そんな事をコンラッドは口に出さないから。 「陛下言うな、名付け親」 コンラッドは有利の服のボタンを一つ一つ外していく。 下を向いていた有利がボソッと呟いた。 「ごめん、けどコンラッドのことないがしろにしてたとか、そんなんじゃないから」 「わかってるよ」 「俺も…コンラッドと一緒にいたいからさ」 顔をあげると優しくコンラッドが微笑んでいた。 「ありがとう、ユーリ」 その笑顔に有利も微笑む。 「あーあ、仕方ないな、今回だけだかんな。一緒に入ろ」 「はい」 なんだか拗ねていたコンラッドが可愛くて、有利はコンラッドの首に腕を回した。
あまりにもヨザックが絡んでくるのと、冗談でも『俺も陛下にしとけばなぁ』と言った台詞にムカッときてしまってついあんなことを言ってしまったのだが。 有利も同じ事を思っていたとは知らずに。
「お待たせユーリ」 「お腹減った」 「ごめんね。ヨザックに足止めされちゃって。はいどうぞ」 ベットサイドにバスケットを置いて、飲み物をコップに注ぐ。 「ありがと。コンラッドも食べなよ。こんなにいっぱい、俺一人じゃ食べられないし」 「では、お言葉に甘えて」 「おいしいね」 「ええ」 本当においしそうに食べている有利が微笑ましくて、コンラッドも自然と笑みがこぼれる。 「明日は、午前中は仕事しなきゃなんないから、午後キャッチボールしような」 「晴れるといいですね」 「だね」 「ユーリ」 すでに明日のキャッチボールのことを考えているのか、窓の方を見ながら、明日の天気を気にしている有利の名を呼ぶ。 「ん?何」 「愛してます」 突然脈絡のない告白に、有利は真っ赤になった。 「な、なにっ突然!!」 「急にね、言いたくなったんです」 手を伸ばしてその頬に触れる。赤くなったまま「うーっっ」とか「えーっっ」だの唸っている有利もいとおしくて。 「ありがとう」 出来ることなら、この幸せがずっと続きますようにと、コンラッドは願いながら、有利に口づけた。
End 2009/5/6 ブラウザを閉じてください。
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