異世界に行ってからずっと側にいてくれていたから、それが当たり前になっていたんだけど、当たり前になりすぎてしまってたせいか地球に戻って一人になるといつもコンラッドの事を考えてしまう。
今何やってるんだろうとか、ご飯食べてんのかなとか、もう寝てんのかなとか。

「はぁ…」

家族と夕飯をとりながらついため息がもれてしまった。

「どうしたの、ゆうちゃん。学校で嫌なことでもあったの?」

「いじめ?」

兄の勝利も反応する。

「違う、違う、何でもないよ」

「最近何だか元気ないし、ママ心配だわ」

「だから何でもないよ。ただちょっと考え事してただけだから」

おちおちため息もつけやしない。

「わかった、ゆうちゃん恋してるのね」

「はぁ?」

「そうよね、うん絶対にそう。ゆうちゃんだって花の高校生、彼女の一人や二人いたっておかしくないもの、ママだって高校生のときは…」

「ご馳走さま」

箸を置いてその場を立ち去り、部屋へ戻った。

「ったく、何でいつもあんなに考えが暴走しちゃうんだろ。大体恋なんて…」

脳裏にコンラッドの笑顔が浮かぶ。あれ?胸がドキドキする。なんでだ?まさか本当に??俺は頭をブンブン振ってコンラッドを振り払う。

「気のせいだよ、うん」

しかしまたすぐにコンラッドの顔が浮かび、胸のドキドキは収まらなかった。

                                                

 

「渋谷、今日ため息ばっかりだね」

帰り道、偶然会った村田と歩いている途中、村田が話しかけてくる。

「そうかな」

「うん、何かあったのかい?」

「いや、別に」

「ふーん、ねぇお茶でもしていかない?奢るよ」



「で、お茶ってここ?」

公園のベンチに腰かけると村田が缶ジュースを手渡してくる。

「学生で無職の身じゃこれで精一杯」

「ありがと」

でも村田らしいや。

「んで、そのため息の原因は何?」

「うーん、何かやることとかやりなきゃいけないこととか一杯あるのに今の状態の俺に出来ること何にもなくって、何か気ばっかり焦っちゃって」

コンラッドの事もあるけどこれも本当の事。村田は俺の話を静かに聞いている。

「きっとそれって今は何にもしないで休んでていいよって事じゃない?本当に何とかしないといけないんだったらあれこれ考えてる暇なんてないんじゃないかな。きっと嫌でも何とかしないといけないような状況に落ちいちゃうよ。だから今はゆっくりして、考える時間なんだよ」

俺は村田を凝視してしまった。確かに何かしなきゃって考えてる暇なんてないぐらい眞魔国にいったら色々な事に巻き込まれてるし、俺の意思なんて関係なく、あっちの世界に呼ばれて、どんどん話が進んでいってる。

「そうなのかなぁ。そっか。なんか村田ってすごいなぁ」

村田はニッコリ笑って続ける。

「それに急がば回れって言うだろ」

何だか村田と話をしてると近所のお爺ちゃんと話しているようだ。

「そうだな。うん、サンキュー」

飲み終った缶をゴミ箱に投げようとした時、いきなり村田が予想外な事を言ってきてバランスを崩してしまう。

「僕はてっきり渋谷に好きな子が出来たのかと思ったんだけどな」

カンと音をたてて缶はごみ箱の外へと転がっていった。

「あれ、まさか図星?」

「ち、違う、断じて違う」

「ふーん」

一瞬、村田の眼鏡の奥が鋭く光ったような気がした。

「そっか、やっと渋谷にも春が」

「勝手に決めんなって」

ぬっと村田の顔が近付いてきた。

「その1、その人の事を考えるとドキドキする」

頭の中にコンラッドの顔が浮かぶ。やばいドキドキする。

「その2、何をしてても相手が何をしているのか気になる」

うっ、確かに。

「その3、側にいたい」

だって、俺の側にずっと居るって言ったのはコンラッドだ。

「渋谷、顔が赤いよ。へ〜、ふーん」

「だから、違うってばさ」

慌てて否定するけど村田は嬉しそうに歩いて行く。

「んじゃまぁ、上手くいったら報告しろよ」

勘違いしたまま村田は手を振って公園を出て行ってしまった。

「出来るかっての」

俺は公園の噴水を覗きこんで今日何度目かのため息をついた。
その時どかっ!!っと背中に何かが勢いよく当たって前につんのめる。

「わぁ、ごめんなさい」

誰かが駆け寄ってくる足音。俺は頭から噴水に突っ込んで、そしていつものように渦に巻き込まれていく。

「まだ心の準備、何にも出来てないってのっ」

と叫んでみても、その声と共に俺は渦にのまれて行った。





「陛下、大丈夫ですか?」

タオルを持ってギュンターが近付いてくる。どうやら城の中庭に着いたようだ。ギュンターの隣にはヴォルフラムが立っている。

「ありがとう。えっとコンラッドは?」

辺りを見回してコンラッドの姿を探してしまう。

「今、陛下の服をお部屋にご用意しているところです。まずは部屋で着替をなさって下さい」

「わかった」

相変わらず部屋までの間キャンキャンとヴォルフラムが絡んでくる。それをあしらいながら自分の部屋の前で立ち止まる。ここにコンラッドがいる。

「どうしたユーリ、入らないのか?」

一緒に付いてきたヴォルフラムが首を傾げる。

「あっ、うん」

兎に角、普通にすればいいんだ、うん。と自分にいい聞かせて思いきって扉を開けた。しかし部屋の中には誰もいない。

「…コンラッド?」

「ユーリがあんまり遅いから出ていったんじゃないのか。相変わらずへなちょこだからな。僕は兄上に報告してくるから着替えたら執務室に来い」

「わかった」

なんだかホッとしたけどがっかりもしてしまった。

「久し振りなのに何で一番に会いにこないんだよ」

勝手なもので姿が見えないとなると今度はムッとする。上着を脱いで椅子の背にかける。

「あれ?」

ベットの上に用意してあると思っていた服は見当たらない。辺りを見回していると、ノックの音の後、コンラッドが入ってきた。

「遅くなりました。陛下の服をメイドが片付けてしまっていて。陛下?」

「あっ、うん、ありがとう」

つい下を向いてしまう。どうしよう。コンラッドの顔をマトモに見られない。コンラッドが近付いてきた。

「お久し振り、陛下、顔が赤いよ、風邪でも引いてしまったのかな?」

「だ、大丈夫、全然元気だからっ。それに陛下って言うな名付け親」

「すみません、ユーリ。でも本当に風邪を引いては大変だから、早くこれに着替えて下さい」

ニッコリと笑い、着替を手渡される。その笑顔に胸が締め付けられる。これってマジでやばくないだろうか。

「ありがとう…」

「この後、眞魔国の現状を話しますので執務室へ。俺は先に行っています」

「うん、俺もすぐ行くから」

「では」

コンラッドはすぐに部屋を出ていった。

「うっわー絶対ヤバイよ」

着替を終え、俺はベットにダイビングする。コンラッドの顔を見て、話をしている最中ずっと心臓がバクバクいっていた。でも会えて嬉しいと素直に思ってしまう。勝手に顔がにやけてくる。

「駄目だ、駄目。俺は魔王なんだからもっと気を引き締めなきゃ」

パンパンと頬を両手で叩き俺は執務室に向かった。


 

「現状では隣国の動きは何もない。今のところはどの国も静観していると言ったところだ」

「このまま何もなけれはいいんだけど。けど今回は何で俺が呼ばれたの?」

何か嫌な予感。

「目を通してもらう書類がかなりたまっている。陛下には明後日までにすべてに目を通してもらう」

「明後日ぇ〜!もしかしたらソレ?」

机の両側に山積みになっている書類を指差す。こんなの3日でなんて無理っ!絶対。

「ユーリっおかえり」

「グレタ、ただいま」

扉が開きグレタが飛び付いてくる。

「今度はゆっくり出来るんだよね」

「うん」

「良かった、パーティに一緒に出れるね」

「パーティ?」

「し明後日、眞魔国の建国記念式があります。国を挙げてのお祝いですから陛下にもご参加頂きます」

「じゃ、僕はその準備があるから行くぞ。グレタ、ユ―リはお仕事だから僕が遊んでやるぞ」

「ユーリ、後で遊んでね」

ヴォルフラムに手を引かれて出て行くグレタに手を振る。せっかくの娘との浅瀬もゆっくり出来ない。

「では私も」

コンラッドも出口に向かう。

「コンラッド!」

「はい?」

「あっいや…何でもない」

つい呼び止めてしまった。ずっといてくれるんじゃないのだろうか?

「後で様子を見にきますね」

そしてコンラッドも部屋から出て行ってしまった。

「私は残りますのでなんなりとお申し付け下さいね、陛下」

ギュンターが嬉しそうに言ってくる。

「ギュンター、陛下の気が散るから、お前も下がれ」

キッパリとグウェンダルにいい放たれ、ショックを隠しきれない顔でギュンターも出て行く。これにはちょっと感謝だ。

「じゃあまずはこれからだ」

大きな机に座り、積み上げられた書類に目を通していく。しかしこれ3日間で終わるんだろうか。

「取り合えずやるしかないんだよね。急がば回れってな」

俺は集中して書類を片付けていった。途中でグウェンダルがアニシナさんに呼ばれて、というか連れ去られて部屋を出ていった。どのぐらい時間がたったのだろうか。

「喉が渇いた」

椅子に寄りかかり大きな伸びをする。
その時扉からノックの音と「失礼します」と聞き慣れた声。それだけで心臓がはね上がる。

「お茶にしましょう。疲れたでしょう」

「ありがとう」

下を向いて、書類を見てるふりをした。絶対顔が赤くなってる。恥ずかしくてコンラッドの顔が見れない。テーブルの上にコップを用意する音だけが室内に聞こえる。少し落ちつかなきゃ。

「ユーリ、やはり体調が良くないんじゃないかな?」

頭上から声がして上を見るとすぐ隣にコンラッドが立って、自分を見下ろしていた。その手が額に触れ、そのまま頬に触れる。

「ちょっと熱いな」

俺は硬直したまま動くことが出来なかった。

「ユーリ?」

いつも沈着冷静なコンラッドが慌てている。

「どうしたんですか??どこか痛むんですか?」

気が付くと頬に涙が伝っていた。

「な、何でもない」

どうしよう。悲しい訳じゃないのになんだか涙がでてくる。胸が痛くて、どうしようもない気持ちがまるで溢れていくかのように。

「ユーリ、泣かないで」

コンラッドの顔が近付いてきてその唇が涙を拭う。
そして頬を両手で包みこまれる。顔が近付き俺は静かに目を閉じた。
柔らかい感触が唇に触れる。ゆっくりと唇が離れた後、
扉が勢いよく開かれた。

「コンラッド、ユーリから離れろ」

手は剣に触れ、今にも抜きそうだ。

「何故、ユーリを泣かした、コンラッド」

「誤解だヴォルフラム」

「そうだ落ち着け、ヴォルフラム」

両手をブンブン振り回して全身で否定する。

「ユーリの目にゴミが入っていたのを取っていただけだ」

ナイス嘘!

「…本当かユ―リ」

「うん、そうそう。なんかずっと書類を見ていたせいか目が痒くってゴミがはいっちゃったのか、んでコンラッドが見てくれて」

「そうか、別にならいい」

ヴォルフラムの手が剣から離れ、俺はほっと胸をなで下ろした。

「ヴォルフラムも来たことだし少し休憩しましょう」

テーブルに移動し、三人でお茶をする。
お茶の間中、殆んど俺が地球にいた時の話をずっと喋り続けていた。でも本当のところ半分以上何を喋ってたのかなんて覚えてない。
二人が出ていき、やっと緊張が解ける。デスクワーク再開となったんだけど集中なんて全然できる訳ない。
さっきのコンラッドの行動って…ヴォルフラムが入ってきたから、なんだかうやむやになっちゃったけどやっぱりキスされちゃったんだよなぁ....
思い出し、顔が真っ赤になる。俺、ファーストキスだったんだぞ!初めてだったんだぞ!!俺、どんな顔してたんだろ。っていうかなんで?

「もしかして二人きりで居る時泣いたら、キスしなきゃいけないしきたりとか?」

ということは、相手のこと好きでなくてもいいって事なんだろうか。
嫌われているとは思ってないけど自分が持っている感情とは違うのだろうか。
さっきのキスで自覚する。
やっぱり俺、コンラッドのことが好きだ。コンラッドを見てどきどきするのも赤くなっちゃうのも、好き、だからだ。うーっっ乙女じゃねーかそんなのっっ。
胸が苦しい。仕事なんて勿論手につかなかった。それでもどうにか3日間で全ての書類に目を通す。しばらく活字は見たくもない。
その間、あまりコンラッドとも会う機会がなく、会ってもいつも通りの態度だからあの時の出来事って本当は俺の妄想だったのかと思ってしまう。



 

明日の準備で城内はごった返していた。やっと書類を片付け、休めると思ったのもつかぬ間、部屋ではさっきから明日の衣装の件でギュンターがいろんな服を持ち込み、まるで着せかえ人形のようにとっかえひっかえされていた。

「ギュンター、もう何でもいいよ」

「いけません、陛下。その美貌を引き立てる為にはそれそう応のものを用意しないと」

美貌…ねぇ。

「なぁギュンター、俺って美形なわけ?」

「何を急に仰るのですか。その黒く深い、漆黒の瞳、小さいながらにもバランスの取れた鼻筋、まるで吸い付きたくなるような麗しい唇、陶器のような滑らかな肌」

「もういい…」

頭痛い。聞いてる方がハズイ。

「あのさ、好きな人じゃない人にキスしたくなったりする?」

「私はその様なことはありません、陛下一筋です。しかし陛下のご命令であれば」

「いや、命令しないから。一般論だし。うーんやっぱり人それぞれだよな。好きな人とでないと付き合えないし」

「そういえばウェラー卿は以前は断りきれず付き合っていた女性がいたようですけどね」

なっ!そんなの初耳だ。

「そ、それって誰でもいいって事かよ」

「さぁ、どうでしょうか。あれ?雲行が怪しくなって来ました」

ギュンターが窓の外を仰ぐ。なんだよそれっ。

「ユーリっ、明日のお洋服決まったの?」

グレタが部屋に飛込んできて腕に絡み付く。

「ユーリどうしたの、怖いお顔してる」

「何でもないよ。ちょっと嫌なことがあっただけ」

小さなグレタに心配をかけさせてはいけない。深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

「ああ、また陽がでてきました」

「グレタはお洋服決まったの?」

「うん」

「そっか、ちょっと外にお散歩行くか?」

「うん」

グレタは嬉しそうに俺の手を握ってきた。

「んじゃギュンター、服、適当に決めておいて」

「そんな、陛下の服を適当にだなんて」

「ギュンターが決めてくれた服なら確実だろ。よろしくな」

「陛下っv私に一任下さるのですね、なんたる光栄」

身悶えているギュンターを後にグレタと中庭を散歩しにいった。けど頭の中はコンラッドのことでいっぱいだ。父親失格だ、ごめんグレタ....

 

 

 

 

「うっわー凄い人だなぁ」

「皆、陛下を一目見ようと集まっている。民に手を振って」

隣にグゥエンダルが立ち同じように城下へ手を振る。
バルコニー、と言ってもこういう時に作られたのであろう城の中程にある、国を一望できる場所。俺が手を振ると歓声が沸き上がった。

「凄いなぁ」

「皆、貴方の活躍を、この国の発展を期待しているのですよ、陛下」

コンラッドが話しかけてくる。

「へなちょこだけどな」

「へなちょこ言うな」

「で、俺はこれからどうすればいいわけ?」

「隣国で眞魔国に友好的な国を招待してあるからまずは謁見をして、その後食事会だ」

うっ、重い。

「大丈夫だよ、ユーリ」

コンラッドが横で安心させようとしてくるけど、それに俺はうなずくことしか出来なかった。

 

隣国との会食も無事終り、後は広間でパーティとなった。広間では美しく着飾った人々がダンスを踊っている。

「陛下、ダンスのお相手をしてくださらないかしら」

ツェリ様が嬉しそうにやってくる。相変わらず、目に毒な衣装だ。あんなにスリットが入っていたら見えちゃうじゃないか。

「駄目ですっ。俺、ダンスなんてやったことないし、中学の授業でやった組体操しかわかんない!」

「組?大丈夫、私が手取足取、お教えしますわ」

有無を言わさず広間に引っ張り出される。以前コンラッドにダンスを教わったのにもかかわらず、ぜんぜんリードできていない。

「はい、手を合わせて、私の腰に手を回して」

うわ〜凄い密着。やばいですツェリ様。

「そう、先ずは右足から、はい、1、2、1、2。お上手ですわ」

暫く踊っていたがもう足がもつれてくる。

「母上、陛下ももうお疲れですよ。それにさっきから母上と踊りたい紳士が独り占めしている陛下を睨んでいますから交代してあげて下さい」

「あら、なら陛下失礼しますわ。とってもお上手でしたよ」

「はは、どうも」

取り合えず形になってて良かった。

「お疲れ様、陛下」

助け舟を出してくれたのだろう。

「サンキュー」

「どういたしまして」

そこへ美しい女性が現れた。

「ウェラー卿コンラート様、お久し振りでございます」

ドレスの裾を上げ軽く挨拶をする姿は女優のように美しい。

「もしよろしければ一曲踊っていただけませんか」

「いや、俺は」

「折角の女性からの申し出なんだから断わったら失礼だろ。子供じゃないんだから一人で戻れるよ」

俺は玉座に向かっていった。どかっと椅子に座り込む。コンラッドとその美しい女性が中央で踊リはじめた。なんてお似合いのカップル。

「あれ?あのウェラー卿が踊ってる女性って」

ヴォルフラムがつぶやく。

「知ってるのか?」

「前に付き合っていたんじゃなかったのかな」

つ、付き合ってたぁ〜!!

「あんな綺麗な人と…」

「魔族の娘で、かなり良家の娘だったはず。ウェラー卿にご執心だったからな。まさかまだ続いていたんだろうか?」

そんなの初耳だ。コンラッドに恋人がいたなんて。俺、絶対勝てるわけないじゃん。やっぱあのキスだって俺が突然泣いちゃったからなんだ…

「どうしたユーリ?顔色悪いぞ」

「何か疲れちゃったみたい。グウェンダル、俺、部屋に戻るから、後は頼むな」

「大丈夫か。ヴォルフラム、部屋まで着いていってやれ」

「大丈夫。一人で戻れる。一人にして欲しいんだ」

「ユーリ…」

「ヴォルフラムがそんな具合悪そうな顔すんなよ。大丈夫、ちっと横になれば治るから」

笑顔を作って俺は部屋に向かっていった。あの角を曲がれば部屋だ。俺はその場で立ち尽くした。ばかみたいだ。勝手に好きになって、勝手に失恋してる。キスだって、誰にだってできるんだろう。この国の人たちは外人みたいな容姿だし、外人と一緒で挨拶みたいなもんなんだ、キスなんて....
俺は向きを変えて外に出て行った。

城内とは違い、城の中庭は静まり返っていた。空には雲がかかり、満月その間を見え隠れする。俺は中央の噴水に近づいていった。

「もう、帰れるよな」

書類だって片付けたし、今日のパーティで魔王としての役割もちゃんと果たした。今は平和だし、俺がここにいなくたって、大丈夫。

靴を脱いで噴水に乗り上げ腰をかける。両足を水の中に浸す。

「冷たいっ」

なんかバカみたいだ。
ポチャン....水面に波紋が広がる。ポツポツと小さな波紋が出来、いくつものしずくが噴水の水面を叩き、波立たせていく。雨が激しく降り始めた。

「陛下、何をしているんですか」

背後からコンラッドの声が聞こえる。

「来るなっ」

来ないでくれ....コンラッドが俺のことを好きじゃなくても、傍にいたくなってしまう。

「もう、水浴びの季節じゃないよ。風邪をひくから中に入ろう」

それでも優しい声でコンラッドは話しかけてくる。

「入らない。俺はもう地球に帰るんだ。もう書類だって片付いたし、パーティだって参加したし、今ここでやることなんて何もないだろ、俺がいなくたって大丈夫だ」

「.....ユーリ」

ジャブジャブとコンラッドが水の中に入ってくる。腕を引かれ向きを変えられた。

「えっ?」

そしてそのままコンラッドに抱きしめられる。

「ユーリがいないと俺が大丈夫じゃないよ」

「なんで…なんでだよっ、恋人がいるのに俺に、そんな事言うなっ」

抱き締められた腕から逃れようとする。

「恋人?何のことですか?」

「離せよっ」

「離さない。ユーリ、話を聞いてくれ」

「聞きたくないっ、んっ…」

何?それ以上、何も話せなくなった。コンラッドの唇が俺の唇を塞いでいる。俺がおとなしくなると静かに唇が離れていった。

「ユーリ、風邪を引くから取り合えず部屋に入って」

突然の雨で二人ともずぶぬれになっていた。抱き上げられ、そのまま城内に戻っていく。コンラッドの部屋に入りタオルを渡される。コンラッドは、何も言わないでお茶を入れてくれ俺に渡してくれた。ベットに腰かけて渡されたお茶を両手で掴み下を向いて、俺は何も喋らなかった。いや、喋れなかった。

「ユーリ」

コンラッドが膝まづいて話しかけてくる。

「寒くない?」

コクンと頷く。

「さっき、広間にいた彼女の事気にしてるの?」

俺はもう一度頷く。

「彼女がコンラッドと付き合っていたって」

「彼女とはなんでもないよ。以前交際を求められたことはあったけど、それには応えられなかった」

「なんで…何で俺にあんなことすんだよ」

コンラッドが首をかしげる。

「あんなことって」

思い出して顔が赤くなる。

「俺っファーストキスだったんだぞっ。コンラッドは挨拶のつもりかもしんねーけど、日本では大事な行為なんだぞ」

「それは良かった」

はぁ?良かった?何が?言葉に出して聞いてみる。

「良かったって何が?」

ニッコリとコンラッドは微笑んだ。その顔に見とれていると至近距離に顔が近付き、またもや唇を奪われてしまう。

「なっ、なっ、だからっ何でって!!」

「眞魔国でだってキスは好きな人とでないとしませんよ」

今、何て言った?

「ユーリ、好きだよ」

好き?コンラッドが俺を?ってことはなに?両想いってこと?
ええっっ―っっ。ちょっと待って、片想いで振られたと思ってたのに?
逆転さよならホームランってこと?

ギシッとベットの軋む音がして気が付くと俺は仰向けになってコンラッドを見上げていた。

「ユーリは挨拶で誰とでもキスするの?」

「するわけないだろっ!キスは好きな人とじゃないとしちゃだめなんだ、ん…んん」

言い終わらないうちにコンラッドがキスをしてくる。今度は触れるだけでなく、舌が入り込んでくる。やばい、キスがこんな気持いいとは知らなかった。

「っ…はぁ…んん」

息継ぎのために顔をずらしてもコンラッドはまた俺の唇を捕えてくる。

「ちょ、ちょっと待って!」

コンラッドの肩を両手で押し退ける。
いつの間にやらズボンからシャツが抜き出され、ボタンも全てはずされている。

「ちょっと待てってば」

さっきまでのキスで息が上がっている。

「嫌ですか?」

「嫌とか嫌じゃないとかじゃなくて展開早すぎっ」

「そうですか?」

涼しい顔でコンラッドが聞いてくる。

「そうだよっ。大体普通はだなっ、デートを何回かしてからキスをして、お互い理解して同意の上で付き合って数ヶ月してからコトに及ぶんだぞっ!」

俺は一気に巻くし立てた。

「ぷっ…アハハハハッ」

おかしいこと言ったつもり全然ないのにコンラッドは笑いころげている。

「何がおかしいんだよっ」

「アハハ、いや、すみません。ではお互い理解して、数ヶ月たったら良いわけですね。でも俺たちは知り合ってもう数ヶ月たってるわけだし、お互いのこと良くわかってると思うけど」

「…そうだけど、でもまだ早いよっ」

くしゃくしゃと髪を撫でられる。

「可愛いな、ユーリは」

「何か馬鹿にしてんだろ」

「してませんよ。ではユーリの心の準備が出来るまで待つとしようかな」

「数ヶ月じゃ駄目かもしんないだろ」

「待つよ」

「何年もかかるかもしんないぞ」

「いいよ。何年でも、何十年でも。永遠にユーリの側にいるから」

コンラッドが微笑む。それはまるでプロポーズのようで、もうそれ以上俺は何も言うことができず、抱きしめられた腕をもう俺は振り解こうとはしなかった。

でも....村田に報告するのだけはやめておこうと心に誓った。


Fin

お互いの気持ちを言葉で確認。これから先のことはコンラッドがいろいろ有利に
教えていくんでしょうな。なんせ100歳超えてますしね。

2005/12/23

 

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