あのアルバイトから二日後、俺と村田は眞魔国にやってきた。
「陛下、猊下おかえりなさいませ」
ギュンターが瞳をウルウルさせながら駆けて来る。
「ただいまぁ」
「おかえりなさい、陛下、猊下」
コンラッドがタオルを頭にかけて拭いてくれる。
「うん、ただいま」
服を着替え、執務室に入るといつものことだが書類が山積みだ。
「あれ、そう言えばヴォルフラムは?」
「ちょっと家に戻ってるよ」
「そっか。ところでなんだか城内が騒がしいけど何かあったの」
「実は」
ちょっと困った顔をしてコンラッドが話を続けようとするとバタンと大きく扉が開け放たれた。
「陛下〜vvいつお戻りになりましたの」
そのまま鼻孔に悩ましい香りが吸い込まれ、って息出来ない!?苦しい〜。
ギュンターの叫び声が遠くに聞こえる。
「母上、陛下が苦しんでますから、ご挨拶は程々にして下さい」
「あら〜ごめんなさい陛下。お戻りになられてつい嬉しくて」
「ぷぅ、はぁ」
危なく圧死するとこであった。男子高校生には刺激が強すぎる。
「ツェリ様がいるなんて珍しいですね」
「うふ。今日は陛下にお願いがあって」
「お願い…ですか?」
「実はね、私、陛下が魔王に就任されてから自由恋愛旅行に出掛けているでしょう。その時の出会っている殿方を眞魔国にご招待したいの」
ツェリ様が言い出すなら2、3人をご招待と言う話ではないだろう。
「それってどのぐらいの人数を」
「そんなに多くなくってよ。500人ぐらいかしら」
500人っっ!!そんなにツェリ様の虜になっちゃったんですか?
俺は王佐のギュンターを見た。俺の一存で決められる事ではないだろう。
「ツェリ様。私欲での宴など陛下はお許しになりませんよ」
確かにそのためにパーティーを開くのは国民の皆様に申し訳ない。だって税金でしょ。今回はギュンターの意見に賛成だ。するとツェリ様は俺を窓際に連れて行き、小さい声で話始めた。
「実はね、陛下。そのパーティーでグウェンダルやコンラートのお嫁さんを探してあげたいのよ」
「ええーっ!!」
「し-っっ。だってこうでもしないとなかなか女性となんて知り合わないじゃない、特にグウェンダル。モテないって訳でもないのに、女性に対して内気だし」
ということは500人全部が男の人ではない訳ね。
けど…俺はチラッとコンラッドを見た。何を話しているのか知らないコンラッドは俺と目が合うとにこっと微笑む。このことを知ったらなんて言うだろう・・・
グウェンダルはともかくコンラッドが本気になれば落ちない女性なんていないと思うんだけど。
「どうかしら。これも息子を思う母心なのよ、陛下」
「いいんじゃない、渋谷」
いつの間にやら村田が俺達の話を聞いていた。
「村田、いつの間に」
「バイトの成果を試すには絶好のチャンスだし、もしかしたら、可愛い女の子と知り合えるチャンスかもよ。」
「ねぇ陛下、猊下もああ言って下さってるし、宜しいでしょ」
けどなぁ。
「きっと皆の息抜きになるよ」
「判った。いいよ。けどあんまりお金かけないで下さいね、ツェリ様」
「やぁーん、ありがとぉ、陛下」
またもぎゅーっと抱き締められ今度はギュンターが小姑よろしく、ぎやんぎゃん言いながら止めにはいった。
「楽しみだね〜」
村田は楽しそうに腕を組んで呟いた。なんだか村田、ひとごとだと思ってないか?
自室に戻り、ベットの上でゴロゴロしているとノックの音がして返事をする。たぶんコンラットだ。案の定コンラッドが入ってきた。
「失礼します陛下、さっきのパーティーの件ですが」
ドキッとしてしまう。コンラッドとグウェンの花嫁探しというのは結局内緒にしているから。
『あの二人に話しておくと絶対参加しないから内緒にしていてね、陛下』
と釘をさされていた。
「母が我儘を言ったんじゃ?」
「えっ、ああ違うよ。今回は珍しく村田も賛成してるしさ。皆も毎日働いてくれててちょっとした息抜きになればいいかなと思ったから」
コンラッドは微笑むとベットの端に腰掛け俺に手を伸ばして頬に触れた。
「ありがとうございます、陛下」
顔が近付いてくるのをかばっと起き上がり、避けてしまった。
「陛下って呼ぶなよ、名付け親」
と誤魔化して。コンラッドはいつも通り、
「すいません、つい癖で」
と返事をした。変にとられてないかな?
その後、数日はパーティーの準備で城内はばたばたしていた。いつもの執務が終わると結構自由時間がとれる。ギュンターもパーティーの準備で俺にかまっている暇がなさそうだし、暇をもてあまし、眞王廟の村田を訪ねてみた。
「あれ?珍しいね。一人で来たの?」
「コンラッドが下にいる。兵士の女の子に頼まれごとされてたよ」
「男手、不足してるからねぇ。僕もアレコレと使われちゃってるよ」
「別にさぁ、コンラッドはパーティー開いて、お嫁さんをわざわざ探してあげなくたってモテるんだからさぁ」
俺は頬杖をついて中庭にいたコンラッドを見下ろした。その視線に気がついたのか上を仰ぎにこっと微笑む。俺は軽く手を振った。
「そうだね〜ここでもウェラー卿の評判は上々だし。けど誰かが背中を押さないと、決められなかったりする人っているから」
「コンラッドはちゃんと自分で決めるよ」
言ってから少し不機嫌になる。
「きっかけって必要だよ。渋谷にも」
「俺は別に…」
今回のパーティーで彼女を見つける気はなかった。せっかくのバイトの成果を試そうと思ってるだけだし。そう言おうとする前に部屋の中にヨザックが入って来た。
「あれ、坊ちゃん来てたんすか?」
「久しぶり、ヨザック。明日のパーティー、ヨザックも来るだろ」
「もちろん、目一杯お洒落させてもらいますよ〜ドレスも新調しちゃいますしvvv」
やっぱ、グリ江ちゃんで参加なんだ。
「そう
言えばさっき城に寄ったらグウェンダル閣下が陛下の事、探してましたよ」
「えっ本当?何だろ。じゃ村田、明日な」
俺はコンラッドを呼び城に戻った。グウェンの執務室に寄ったが姿が見当たらないため部屋に行ってみる。ノックをすると
「入れ」
と返事があった。
「グウェン、何か用?ってどうしたのこれ」
部屋の中には色とりどりの洋服が所狭しと並べられていた。
「母上が明日のパーティーで着ろと送ってきた。ここからここがコンラートの分だ」
「俺の?」
コンラッドが驚いた表情をする。
「俺はいいよ。パーティーの最中は陛下の護衛をしているし」
「ダメだよコンラッド!折角、ツェリ様が送ってくれたんだし、えーと、もし俺の側にいてくれんならやっぱ正装でないと」
「ユーリ?」
コンラッドもグウェンダルも不思議そうな顔で俺を見る。もうちょっと上手い言い方しなきゃ。
「俺さ、あっちの世界でパーティーの作法みたいなの勉強してきたんだ。だから今回それを試すの良い機会だし、ちゃんとした元プリンスの見本もみてみたいしさ」
「やっと王としての自覚がでてきたか」
グウェンは腕を組んで頷いている。どうやら感心しているようだ。
「せっかくツェリ様が送ってくれたんだし、俺が2人の服選んでやるからさ。なっ、コンラッド」
「陛下がそう言うなら」
怪訝そうな顔をしているがそれ以上コンラッドは何も言わなかった。
ふーっ。隠し事って疲れるよ。
その夜、そろそろ寝ようとした時、部屋にコンラッドが入って来た。
「どうしたの?こんな時間に」
「ちょっとユーリに聞きたい事があってね」
「聞きたい…事?」
コンラッドがベットの端に腰掛けとぎしっとベットが軋んだ。
「俺に隠してる事あるでしょ」
「…別にない」
嘘をついていると相手の目が見られないというのは本当だ。俺もついコンラッドの顔から視線をはずしてしまっていた。
「そう」
「えっ、ちょっと、コンラッド!」
顎を掴まれ向きを変えられたと思ったら唇を塞がれる。
「んっ」
胸を押し返し身体を離そうとするが腕を掴まれ頭上で拘束され身動きが出来なくなった。深いキスが続いて息があがってくる。ようやく唇が離れて、俺はコンラッドを睨み付ける。
「何すんだよっ!」
「話してくれる気になりましたか?」
「…」
俺はだんまりを続けることした。
「仕方ないな」
コンラッドは一度ベットから降りて扉に向かった。諦めて部屋を出て行ってくれるのかと思いきや、内側から鍵をかけて戻って来る。歩きながら上着を脱いでいる。
本気ですかーっ!!!
「ちょっと待ってコンラッド」
「待ちません」
これは逃げなければとベットから抜け出そうとしたがそれより早くコンラッドは俺の足首を掴んだ。
足を掴んだままコンラッドが上に乗って来る。そして再び唇を塞がれた。舌が入り込み口内を探って来る。舌を絡みとられ、飲み込めない液が端から零れて行く。キスをしながらコンラッドの手は俺の上着のボタンを外していき、シャツの上から胸を探り始めた。俺はコンラッドの胸を押し返す。
本当のとこコンラッドとはまだ最後までいってなくっていつも途中で終わっている。だって怖いじゃないかっ!俺達男同士なんだしっ。なかなか決意ってもんが決まんないんだ。なのにこんななしくずしでされてたまるかっ!
しかしだんだん思考能力が奪われて、頭が霞んでくる。
「ま…って」
霞んでくる頭を懸命に奮い起こし、首筋に顔をうずめていたコンラッドの顔を思い切り引っぺがした。
「何ですか?」
ちょっと不機嫌そうな顔をするが、耳元で囁かれて、耳朶を甘噛みされ、ぞわぞわした感覚が脊髄を走り抜けて行く。
「話す…話すから」
コンラッドは頬にキスすると上半身を起こした。でもまだ俺を見下ろす格好。
「あの…どいてくれる?」
「ちゃんと話してくれる?」
俺が頷くとコンラッドは起き上がり、俺の手を引寄せてベットに座らせる。や、やばかった。
「で、何を隠してたの?」
「ツェリ様に頼まれたんだ」
「母に?」
「そう。今回のパーティーはグェンダルとコンラッドのお嫁さんを見つけるためのパーティーにするから2人には内緒ねって」
はぁ………とコンラッドが溜め息をつき肩を落とした後、俺を見つめた。
「ユーリは承諾した訳なんだ」
「承諾って言うかさ。もしかして…怒ってる?違うよ。俺、別にコンラッドに結婚してもらいたいなんて思ってないからなっ!!」
「なら何故?」
「けどさぁ、いつかはコンラッドだって結婚するかもしれないし、俺達、なんか中途半端で....男同士だし」
「なら今のうちに気持ちの整理をつけてしまおうと」
俺はこくっと頷いた。だってこのままだと俺はどんどんコンラッドの事好きになって、頼ってしまって離れられなくなってしまう。
「俺の気持ちは?」
「え?」
「ユーリだけが気持ちの整理をつけても俺の整理はつかないよ。それともユーリは俺のことはどうでもいいの?」
頬に手が触れる。悲しそうな顔。なんで?俺がそんな顔をさせてしまってるんだ。
「コンラッド」
「俺は今のところ結婚の予定も、お嫁さんも探すつもりはないよ。今は誰よりもユーリと一緒にいたいんだけど駄目かな」
俺はぶんぶんと顔を横に振った。
「駄目じゃない…」
コンラッドの顔が近付いてくる。ものすごく優しくて、切ない顔で。
「ユーリ、愛してるよ」
俺はそのまま目をつむった。
翌日、夕方から始まったパーティーは近隣からの招待客も集めると500人以上を軽く越すものとなった。
「すごい人だなぁ」
「陛下はなるべく動かないで下さいね」
俺の隣でコンラッドが微笑む。白の上下に茶色と黄色の刺繍が施された服は、コンラッドの茶色の髪と銀の瞳にメチャクチャ似合っていた。思わず見惚れてしまう。
「どうかしましたか?」
「その服すげー似合ってると思って」
コンラッドはくすっと笑みを浮かべると背をかがめて耳元で囁いた。
「ユーリも可愛いよ」
男に可愛いって言うなぁ―っっ、しかも耳元で囁くなーっっ。
俺は昨晩の事を思い出して真っ赤になってしまう。
「渋谷っ!あれ顔赤いよどうしたの?」
会場に到着した村田が話しかけてくる。
「な、何でもないっっ、ちょっと暑かっただけ」
「陛下、何か飲み物を持って来ますね」
コンラッドはにこっと微笑んで会場へと紛れ込んだ。
「すごい決まってんね〜ウェラー卿。昔のジョンウェインみたいだ」
「だから村田...お前いくつだよ」
「あっ、早速女の子がアタックだ。あっ。断ったみたい。おっ、また来た。モテモテだなぁ。もしかして〜今回のパーティーで本当にお嫁さん決まっちゃうかも〜」
「それはないよ」
俺はきっぱりと言い切る。
「なんで」
「コンラッド、今のところ結婚する気はないって言ってたし」
「ふーん」
にやっと村田が笑う。
「そっか、きっかけになったみたいだね
「へ?何が」
「こっちのこと。さーて。んじゃ渋谷は魔王としてのお勤め果たさないとね。折角バイトしたんだからさ」
「うっ」
コンラッドが飲み物を持って戻ってきた。
「はい、陛下、猊下」
そこへギュンターがやってきた。
「陛下、こちらにいらっしゃいましたか。ああ、なんと今日もまた一段とお美しい。猊下と並ばれていらっしゃると更に美しく」
「いや、お世辞はいいから。何が用事があったんじゃないの?」
「ええ、実は十貴族のうちの一人がどうしても陛下へ挨拶をしたいと。先日、謁見には見えたのですが丁度陛下が留守だったもので」
と勧めてくるわりにはギュンターの眉間に皺が寄る。それってグウェンの特許だよ。
「なんか問題でもあるの?」
「実はご息女を紹介したいと」
「ひゅーひゅー♪チャンスだ渋谷」
「全然その気ないよ。でも挨拶はしといた方がいいだろ。ちゃんとこの国を治めてくれてる一人なんだろ」
「このギュンター、陛下のご聡明さにますます感心致します。陛下にお仕えさせていただいていること、誠にこの身にあまる光栄、感無量でございます」
「あ〜ギュンター、もういいから汁、拭いて。村田も来いよ」
「うん面白そうだし。どうする、すっごい美人だったら」
それはちょっとだけ心が動くかも。いやいや昨日コンラッドとれっきとした恋人同士になったばかりなのにそれはない。
「では連れてきましょう」
「楽しみ〜」
俺は村田を睨み付けた。コンラッドの前で変なこというなよ!
ギュンターが連れて来た十貴族のうちの一人、ちょっと頭が薄くなりつつある、日本で言えば中間管理職タイプだろうか。しばらく話をし、いよいよおじさんは娘を呼んだ。
おじさんの横に並んだのは色の白い、金の髪を持った美しい娘さんだった。一気に緊張する。ヴォルフの様に美しいが、華奢な身体は男だったら誰でも守ってあげたくなってしまう。
「どうした?ミロネーゼは何処だ」
「あちらに」
その子の視線の先にはテーブルの前で大きな肉にかぶりついているかなり太めの女の子がいた。なんか嫌な予感が....
「申し訳ありません陛下。ミロネーゼ、こっちへいらっしゃい」
「えーっとそちらのお嬢さんは」
「この娘はミロネーゼの従姉妹で先日結婚したばかりで」
可憐な女の子はこれまた可憐に挨拶した。
「ということは…」
おじさんに呼ばれた女の子がやってきた。
「娘のミロネーゼです」
「初めまして陛下。私、ミロネーゼと申します」
頭の中で何かが音を立てて崩れ落ちた。
「この子もそろそろ年頃でして。是非とも陛下のご寵愛を賜われればと」
後ろを振り返ると村田が腹を抱えて声を抑え笑っていて、コンラッドがちょっと困った顔で微笑んでいた。なんかデジャブー感じるんですけど。
「いえ、俺はまだ結婚とか全然考えてもいないので」
「もちろんまだお若い陛下のことですから今すぐとは。どうぞお近くに置いて何なりと申しつけて頂ければと。なぁ、ミロネーゼ」
ミロネーゼはニコッと歯を出して笑った。その歯に何かついているのは言った方が言いのだろうか。
「少しポッチャリとはしていますがなかなかの器量良しですし、是非とも陛下」
なんだか鬼気迫るものがあって、にじり寄って来た親子の迫力にあとずさってしまう。
「陛下に対して失礼ですよ」
ギュンターに言われ、ちょっと相手はひるんだけど引く気はないようだ。
「婚約者がいるとはお聞きしていますがいまだ正式発表もないとのこと。きっと早いご婚約に決め兼ねていらっしゃるのですね。今からでも遅くはありません。これをお側に置いて考えてみてください」
今日は俺じゃなくて、コンラッドとグウェンダルのお嫁さん捜しじゃないのかよ〜背後からカチャと金属の触れる音がした。
「もう一度言ってみろ」
「ヴォルフラム」
「正式な発表はまだとしても僕はれっきとした婚約者だ。周りも周知の事実だしな。にしても…」
ヴォルフラムは2人を一瞥して続ける。
「フン、魔王陛下の側で仕えさせるのであればもう少し見目麗しいのを選べ」
ヴォルフラムはずっと剣の柄に手を添えていつでも抜けるようにしている。そしてもう一度柄をカチャと鳴らした。
「くっ、行くぞミロネーゼ。では魔王陛下、失礼いたします。良くお考えくださいね」
ヴォルフラムが剣を途中まで抜きかけると2人はその場を逃げるように去って行った。
「ちょっと言い過ぎだろヴォルフラム」
「このへなちょこっっ!!」
ヴォルフラムは俺の耳を引っ張り思い切り耳元で怒鳴り散らした。
「い、痛いっなにすんだよっ!痛いって離せっ!」
「何だ、お前はっ!久し振りに帰ってきたと思えば、こんなパーティーなんか開いてっ!!この尻軽っ」
「よせヴォルフ」
コンラッドが間に割って入るがヴォルフラムは俺の胸倉を掴んだまま放さない。
「まぁまぁ、フォンビーレフェルト卿落ち着いて」
「これが落ち着いていられるかっ!僕がちょっと留守にしている間に、僕というれっきとした婚約者がいるにもかかわらず、嫁さん探しをしてるなんてっっ」
「嫁さん探しっ!?してねーよそんなの」
「嘘をつけっ。帰った早々メイド達の態度がおかしいから話を聞いたら、今日のパーティーはユーリの相手を探すものだと言っていたぞ!」
「そうだったんだ、渋谷」
「違うだろっ村田っ!!お前もツェリ様から聞いたろ!」
「母上から?」
少し弱まった腕の力を振りほどいて、ようやく自由になる。
俺はチラッとコンラッドを見たが苦笑いをしていただけで何も口を挟んでこなかった。俺は小さくため息をついて、話を続けた。
「ツェリ様が、コンラッドとグウェンダルの相手探しで開いたパーティーだよ」
「兄上とコンラートの?」
「そうだよ。内緒にしてくれって頼まれてたのに。だろ村田」
「なんだぁばらしちゃったの。ダメだよ渋谷」
「本当か、ウェラー卿」
「俺も昨晩、陛下から聞いて知ったんだが、そうみたいだよ」
「後でツェリ様に聞いてくれ。大体まだ俺、高校生だぞ。結婚なんて考えられないよ」
「そうか」
ふーっ、どうやらやっと納得してくれたか。
「ほら、ヴォルフラム、戻って来たばかりだろ。一度部屋で埃を落としてこい。陛下の婚約者ならそれなりの格好をしないと陛下が笑われるぞ」
ヴォルフラムはキッとコンラッドを睨みつけたがすぐ俺に向かい直した。
「いいかユーリ。お前は僕の婚約者なんだ。勝手にフラフラしているな」
「してねーだろ」
「すぐ戻ってくるからなっ」
ヴォルフラムはがしがしと会場を出て行ってしまった。
「つ、疲れた。全然アルバイトの成果を出すどころじゃないよ」
「ある意味生かされたというか。なんだかバイトしていた時のお客…」
「忘れたい過去だから言わないでくれ」
俺はがっくりと肩を落とした。
「あ〜ら、こんなところでなんかの作戦会議ですか?」
薄い紫色のドレスをきたヨザックがひょこっと顔を覗かせる。もちろんお化粧もバッチリだ。上腕二頭筋は相変わらずたくましいけど、さすが変装の名人というか、趣味が生かされているというのか、ドレスはヨザックに似合っていた。その後ろからグウェンダルもやってきた。
「あれ?同伴」
「違うたまたまあっただけだ」
グウェンダルが心底嫌そうに答える。
「酷いわ閣下。閣下につり合うように精一杯着飾ったのに」
グウェンの眉間の皺が一つ増えた。
「グウェンダル、それ凄い似合ってるよ」
「…そうか?」
うんうんと俺は頷いた。グウェンダルが着ている服は、ツェリ様が送ってくれた中でおれも一緒に選んだやつだ。
「ヴォルフラムが怒りながら会場を出て行ったぞ。何かあったのか?」
「あ〜なんでもないよ。なぁ、なぁ、今日は仕事のこと忘れてぱーっと楽しもうぜ。俺食べ物とってこようか?」
「いやいい。自分で行こう。お前は何か食べるか?」
「ん〜じゃなんか肉!肉が食べたいな」
「ではここで待っていろ」
グウェンダルは食べ物が置いてあるテーブルへと進んでいった。お皿に俺が注文した肉を乗っけている時、一人の女性がグウェンダルに話しかけた。
「あれ?なんか....いい感じじゃない?」
この場所では何の話をしているのかところどころ聞き取れないが、グウェンダルが受け答えをしている。
「ああっ!!グウェンダルの眉間の皺が一本減った!!」
これはもしかするともしかしてしまうのかっ!俺達が期待を込めた視線で見つめているとそこに思わぬ伏兵がやってきた。グウェンの顔に皺が+2本増えた。
「グウェンダル、探しましたよ」
「....アニシナ」
赤い魔女ことフォンカーベルニコフ卿がいつもと同じ姿で仁王立ちでグウェンの前に立ち塞がった。
「フォンヴォルテール卿こちらは?」
「まず人に名を尋ねるならば自身から名乗るのが礼儀」
「し、失礼しました」
「判れば宜しいのです。私はフォンカーベルニコフ卿アニシナです。以後お見おしきりを」
「なぁ、アニシナさん名を名乗れって言って相手の名前聞いてないし」
俺はコンラッドに話しかけた。
「あまり相手に興味がないのでしょう」
二言三言会話し、女の子はその場からいなくなってしまった。
それを見ていた周りからは「まぁやっぱりあの2人」だの「お似合いね」など囁かれて、誰も2人の側に近付こうとはしなかった。
俺から見るとどうしても実験者と被験者にしかみえないんだけど。結局グウェンは、俺に肉を届けることもなく、アニシナさんに拉致されていった。
「いいのかなぁ、アレ」
「あれはあれでいいんじゃないですか。さぁ、陛下折角のパーティなんですから楽しんで下さいね」
「そうだよ〜まだアルバイトの成果試してないし」
「も、いいからそれ」
そしてその日遅くまでパーティは続いてた。
「すげー月がきれい」
部屋から抜け出し、廊下の先にあるテラスから夜空を眺める。人工的な明かりがなくても月の明かりだけで十分に周りが見える。
「陛下、とっくに休まれたのでは?」
「何か頭が冴えちゃって。それに早々にヴォルフが寝ちゃってさ」
「あぁ」
ヴォルフラムの寝相の悪さを知っている次男は苦笑いをして俺の隣りに立った。
「ごめんな、コンラッド」
「…何がですか?」
少し驚いた顔が月明りでも良く見える。
「パーティーのこと。隠してて」
「ああ、もともと母が勝手に決めた事ですし。それに」
コンラッドは背を屈めて耳元で囁いた。
「ユーリの気持ちもちゃんと判ったし」
「…っ、耳元でしゃべんなっ」
低い低音で囁かれて顔が熱くなる。
「そろそろ休まないと。朝練出来なくなりますよ」
「部屋に戻ってもどっちにしても寝らんなそう」
「じゃあ、俺の部屋にくる?」
差し出された手に俺はゆっくりと触れた。すぐに力強く握り返される。俺は月明りが差し込む廊下を手をひかれて歩いていった。
『きっかけって必要だろ?』
村田の言葉が頭に浮かぶ。
「そうだな」
「どうかしましたか?」
「なんでもないよ」
俺はコンラッドの手を握り返して、月明かりの廊下をコンラッドと進んでいった。
END
ブラウザの×で閉じてください。
2006/7/24
アルバイト、全く生かされていません。結局ただのコンユです。これ途中の初Hがあります。
今作成中。
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