7月7日。この日願いごとを書いて笹に吊すと願いが叶うと言われている。 『ゆーちゃんはどんな願い事を書いたの?』 『あのね、野球の選手になるの』 子供の頃から必ずそう書き続けてきたが一向に叶う予定は無い。 それどころか俺の職業は学生でありながら一国一城の王様だったりする。 しかも頭に《マ》が付く魔王様だ。 「渋谷、何でそんなに短冊を睨み付けてるんだい」 「ん、あぁ何でもない」 「早く書いちゃいなよ」 「そう言う村田はどうなんだよ。何書くの」 「僕?僕はほらこれ」 「健康第一、家内安全…って神社に祈願しにきてる訳じゃ無いだろう」 「そう言う君はどうなの?野球の選手になりたいなんて、今年も書くつもり?」 「まだ書いてないよって何で知ってるんだよ」 ふふーんと得意げな顔をして眼鏡をあげる。 「だってそれこそ毎年、幼稚園の時からずっと同じ事書き続けてるじゃないか」 うっ。その通りなだけに言葉に詰まる。 「今年は違うぞ」 「んじゃ、何て書くのさ」 とは言ったものの考えていなかった。 「じゃあ、今年こそ彼女を作るとか」 「可愛い婚約者がいるのに?」 「彼女じゃないだろ」 俺は村田をキッと睨んだ。しかし村田は楽しそうにニヤニヤしている。 そんな村田を無視して俺は短冊に願い事を書き始めた。 「なんて書いたの?」 どれどれと村田が手にとって読み始めた。 「戦争がなくなりますように。ありきたりだね」 「いいのそれで。俺は平和主義の王様なんだから」 商店街に用意されていた笹の葉にそれを吊し終わり歩き出すと村田も横に付いて歩き出した。 「もう少しフォンビーレフェルト卿と進展したいとかさぁ書いとけばいいのに」 「別にこれ以上の進展望んでねーし」 「ならウェラー卿ととかさ」 「な、何でコンラッドが出てくんだよ」 やばい、突然名前を出されたから動揺してどもってしまった。 「だってこの間も二人っきりで城下に遊びにいったんだろ。はぁ浮かばれないね、フォンビーレフェルト卿」 二人きりをいたく強調し大袈裟に溜め息をつく。 「あれは、その、城下の視察だよ。遠山の金さんだって町民に紛れて視察してたじゃん大体何でそんなこと知ってんだよ」 ふふふ、と不敵な笑みを浮かべただけで村田は答えなかった。 「とにかく俺の今の願い事は世界平和なの。じゃ俺こっちだから」 これ以上一緒にいると色々突っ込まれそうだったので俺は分かれ道で村田から早々に離れて家に向かった。 家のドアを開けると何かがバサッと顔に多い被さる。 「な、何だ!」 悲鳴をあげると奥からお袋が顔を出した。 「あら、ゆーちゃんおかえりなさい」 「何、どうしたのこれ?」 俺の顔面を遮っていたのは大きな笹の葉だった。 「お隣りの方から頂いたのよ。ゆーちゃんも飾り付けして、願い事書いてね」 俺は生返事をして二階の自室に入った。ご丁寧に机の上には折り紙セットが置いてある。 「七夕で喜ぶ歳でもないっての」 そう呟きつつも椅子に腰掛けて、短冊を眺めるとペンをとった。そのまましばらくペンをクルクル回したりしながら、願い事を書き始めた。 村田がいたから書けなかった本当の願い事。書いたところで家の笹にだって飾れないのだけど。 そこへお袋がノックもせず入ってきたため。俺は慌てて短冊をズボンのポケットに突っ込んでしまった。 「ゆーちゃん」 「なんだよ、ノックぐらいしてくれよ」 やましい事をしてたわけじゃ無いがなんだか後ろめたくてつい口調が荒くなってしまった。心臓がバクバクいっている。 「あのね、お風呂掃除して欲しいの。ママ買い物行って来るから。お願いね」 「えーっ、勝利に頼んでよ」 「しょーちゃん今日遅いんですって。じゃ頼んだわよ」 ちぇーっと舌打ちして風呂場に向かいズボンの裾をまくる。まだ湯船には湯が入っていたため栓を抜くために俺は腕を突っ込んだ。 「えっ!!」 湯船の水が物凄い勢いで渦を巻き始める。そしていつものスタツアが始まった。 「うわっ、びしょびしょ」 「おかえりなさい、陛下っvv」 いつもの如くギュンターが飛び付いてくる。 「うわっギュンター、俺びしょびしょだから濡れちゃうって!」 慌てて後ずさるがそんなことお構いなしのようだ。 「こらっ!ギュンターっ!!ユーリに抱き付くなっ」 ヴォルフラムがギュンターを引っぺがしにかかる。 俺から剥がされたギュンターは、ヴォルフラムといつもの言い争いを始めた。いつも通りの光景に呆れつつもフッと笑みがこぼれた。 「おかえりなさい、陛下」 「陛下って言うなよ名付け親」 そう言うとニコッと微笑む。 「すみません。ユーリ」 そしてタオルを頭にかけゴシゴシと拭いてくれた。 まだわめいている2人を残して部屋に入り、着替えをする。 「今回は何で呼ばれたの俺は?」 「逢いたかったから」 「へっ?」 唖然として着替える手が止まってしまった俺の上着のボタンをコンラッドが止めていく。 「逢いたかったからですよ。俺がユーリに」 俺の顔が熱くなってくる。多分真っ赤なんじゃないだろうか。何て言っいいのか困り、あーとかうーとか言っているとクスッとコンラッドは笑って、俺の頭を撫でた。 「明日、七夕のイベントを行うためにユーリをよんだんだよ」 「えっ、あっそうなんだ。こっちにも七夕なんてあるの」 「七夕と言う風習はないけど似たようなものならあるよ。ただ今回は地球のイベントを取り入れようと、ギュンター達が企画したんだ」 その時バタンどドアが開きヴォルフラムが部屋の中へ飛び込んできた。 「ユーリっ。何勝手にいなくなってるんだっ。大体お前はだなぁ、自覚がなさすぎるんだ」 つかつかと俺の前につめよりキャンキャンと吠えられる。 「ヴォルフラム、陛下に見せたいものがあるんじゃないのか」 「見せたいもの?」 コンラッドが声をかけてくれなければお小言はずっと続いてただろう。 「そうだ、こいユーリ」 喜々としてヴォルフラムは部屋を出て行く。俺がその後に付いて行こうとすると、耳元でコンラッドが囁いた。 「ユーリに逢いたかったのは本当だよ」 俺は再び真っ赤になった。 「早く来い、ユーリ」 廊下でヴォルフラムが叫ビはじめたため、俺は慌てて部屋を飛び出した。 連れてこられた中庭の一角にやたら飄々とした細長い木が数十本植えられていた。奇妙なその木は先端に密集して葉が集まり枝を伸ばしている。 「随分と変わった木だなぁ」 「あれは長ヒョロの木だ」 「長ヒョロ?変な名前」 「あの木の枝に願い事を書いた紙をくくりつけると、その年は無病息災、家内安全になるといわれている」 「誰かさんの願い事みたいだ…」 俺はさっき別れた友人を思い浮かべた。 「けどあんなに高い場所なのにどうやって紙を結びつけるんだよ」 「ユーリちょっとこっちへ」 コンラッドが俺の肩に手を置いてその場から離れさせる。すぐ側でヒュンと風をきる音がしたと思ったら、長ヒョロの木が大きくしなり、木の先端が地面に届いてまた、もとに戻っていった。信じられない光景だった。 「何あれっ!生きてんの!」 「なんだユーリは知らないのか」 俺が頷くと自慢げに説明を始める。 「この木は一日に何回か大きくしなって先端を地面につけるんた」 「なんで?」 「詳しい事はわかっていないが先端に鳥が巣を作らないようにとか、葉っぱに付いた虫を振り落とすためだとか言われてる」 「もしかして、あの先端が地面に届いてる時に願い事を結びつけるのか?」 「その通りだ」 「無理、絶対無理。大体危険だってば」 「あのぐらい出来なくてどうする。七夕は明日だぞ。それまでに願い事、考えておけよ」 そして用事があると言ってヴォルフラムは城の中に入って行った。 「ユーリ取り合えず中に入ろう」 コンラッドに促され俺も城内へ入っていった。 その日は溜まった書類を片付け一日が終わってしまった。明日、長ヒョロの木につける願い事を机で考えているとコンラッドが入ってきた。もちろんお茶セットを持ってきてくれている。 「あれ、ヴォルフラムは?」 「何か実家に呼ばれて帰った」 サイドテーブルでお茶をいれ机の上に置いてくれた。良い香りが鼻をくすぐる。 「なぁ、こっちの七夕も何か神話みたいな話があるの?」 「特に言い伝えみたいな話はないですね。ユーリの国ではあるの?」 俺は彦星と織り姫の話をした。 「だから七夕の日、晴れてると天の川探しちゃうんだ。ちゃんと出会えてるのかなって。でもさ、大抵梅雨の真っ最中で雨か曇りで今まで見た事ないんだよなぁ」 「じゃ年に一回だけのチャンスなのに会えないままなんですね」 俺は持って来てくれたクッキーを口に運び紅茶を飲んだ。そして話を続ける。 「違うよ、見えないだけで雲の上ではちゃんと会えてるって。けど俺だったら年一回なんて絶対やだ。そんなの堪えらんないよ」 言い切ってしまってハッとなる。これってもしかして、凄い告白。いやでもコンラッドの事だからサラッと聞き流して…くれてなかったようだ。 コンラッドは嬉しそうに笑ってる。 「俺もですよ」 「まぁ、なんだ、一般論として好きな人とはいつも一緒にいたいなと」 「そうですね。俺もいつも一緒にいたいです。ユーリと」 そっと耳元で名前を囁かれる。俺はコンラッドのそーゆう声にすごく弱かったりする。 何だかこそばゆくて首を竦めるとコンラッドの手が優しく頬を撫でた。 そして顔が近付いてくる。 茶に銀を散らした瞳が優しく笑っている。あぁ、天の川の星みたいだ。その星はすぐに見えなくなった。 ベットで横になった隣りでコンラッドが何かを手に持ち眺めていた。青くて細長い、短冊のような… 俺は慌てて起き上がりコンラッドの手からそれを奪おうとするがあっさりかわされてしまった。 「それっ、何処から」 「これですか?ユーリの着替えを手伝った時、ズボンに入っていたんですよ」 「見た…よな」 けどコンラッドは日本語が読めなかった。何が書いてあるかわからないはず。 「『コンラッドに逢いたい』って書いてありますね」 「な、なんで!日本語わからないんじゃなかったのかよ」 「ちょっとぐらいなら判りますよ」 俺はシーツを頭から被りベットに潜り込んだ。 「嬉しいです。ユーリも同じ様に想っててくれてて」 軽く体重をかけられてシーツごと抱き締められる。 「…当たり前だろ、そんなの」 小さい声で言ったのだがしっかり聞こえたようだ。 シーツを取られて嬉しそうな顔であちこちにキスをおとされる。 コンラッドの手が腰に回り俺の身体がびくっと跳ねた。 「ちょっと!コンラッドっ、今したばっかじゃんか」 「ええ、けどユーリがあまりに可愛いことをいうのでまたしたくなりました。嫌ですか?」 「う〜」 嫌かと問われれば嫌ではないけど、素直にやりましょうと言うのも恥ずかし過ぎる。 「明日ちゃんとロードワークすんだからな」 「はいvv」 了承ととったコンラッドは嬉しそうにキスをしてくる。 「愛してます、ユーリ」 「……俺も」 しかしロードワークには結局行けなくなり、ベットの中でぶーぶー言う俺をコンラッドは困ったような、しかし凄い幸せそうな顔をしながら、なだめていた。 けど多分他の人が俺の顔を見たら同じ事言うんだろうな。凄い幸せそうな顔してるって。まぁそのとおりなんだけどね。 Fin
おまけ
2007/7/7 ブラウザの閉じるで戻ってください
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