11月に入ってすぐに街がクリスマス色に変わっていった。そんな地元の商店街のスポーツ店であれこれ物色しているとポンと肩を叩かれる。

「渋谷、何、見てんの」

「村田かぁ。冬のトレーニングウェア。最近朝寒くてさぁ。走り込めば暑くなるんだけ
ど、それまでが結構辛いんだよなぁ」

「げっ、まさかこの寒いのに毎朝走ってるわけ!」

「当たり前だろ。ロードワークはスポーツ選手の基本だからな。村田も朝、一緒に走ろうぜ」

「ジョーダン!こんな寒さの中走って、風邪でもひいたら大変だよ」

「体を鍛えないから風邪引くんだよ」

「僕は頭脳派だから、体は鍛えなくていいの」

結局、めぼしいウェアは見つからず、俺はそのまま店を出て村田と商店街を並んで歩く。

「凄いね、毎年商店街のネオン、激しさを増していかない?」

村田の言うように商店街の通りはカラフルなライトがずっと続き、街路樹までライトがグルグル巻きにされ、何色あるのかぱっと見わからない。陽も落ちてしまい、ライトがあたりを色とりどりに照らしている。

「クリスマスって言っても、俺キリスト教でもないしなぁ」

「僕も。でも渋谷のとこ毎年クリスマスパーティーやってるでしょ。美子さん、キリスト教?」

「名前で人のお袋呼ぶなっちゅーの。聞いたことないなぁ。でも雰囲気でやってるだけだと思うぞ。イベント事大好きだから」

「ははっ、美子さんらしいね」

「村田のとこは?」

と尋ねてからはっとする。村田のうちは両親とも忙しくて、クリスマスどころではない。去年、街でブラブラしていた村田を家に呼んで一緒にクリスマスを祝ったのだ。

「うーん。今年も忙しくてそれどころじゃないんじゃないかな」

「じゃさ、またうちに来いよ。どうせお袋、山のように料理用意するしさ」

「ありがとう。彼女が出来なかったらそうさせてもらいよ」

「何っ、村田好きな奴とかいんのっ」

「言ってみただけ」

「あっそ」

俺はちょっとだけホッとした。何気にモテるんだよなぁ、村田って。

「なんだよ〜彼女が出来たら夜景が綺麗なレストランにいって、ワイングラスを傾けながら『君の瞳に乾杯』って言うのは男子の憧れだろ」

「あの〜俺たち未成年で酒飲めないし、男子はあんま、それ憧れないと思うな」

「えーそうかな、でもせっかくのクリスマスイベントも眞魔国じゃ関係ないしね」

俺が何で?って顔をしたら村田が話を続ける。

「だって眞魔国で信仰されてるのは眞王だしね」

「あっ、そうだよな」

「けど残念だね。クリスマスがあれば、フォンビーレフェルト卿に『君の瞳に乾杯』って出来たのに」

「クリスマスがあってもしねーから」

「まぁどちらかと言えばウェラー卿の方が似合いそうな台詞だけどね。じゃ僕こっちだから、じゃーね」

好き勝手言って村田は、角を曲がっていった。

「確かに言いそうだな、コンラッドなら」

しかもさらっと言ってのけてしまいそうだ。そんな様子を頭に思い浮かべ、ちょっと顔が赤くなるのをごまかすかのように頭を振る。別に誰がみているわけでもないのに、俺は恥ずかしくなり、急いで商店街を通り抜け、家へと駆けて行った。




冬休みは宿題を抱え、村田と一緒に眞魔国に向かった。クリスマスはないけど、そのぐらいから新年を迎える準備をするらしい。と聞いていたのだが……

「何これ、何かのお祭り?」

中庭の噴水の中から顔を出した俺は、一瞬水の冷たさも忘れ唖然とした。

「陛下、いつまでもここにいたら風邪をひきますよ」

脇に手を入れられて、ひょいっと水の中から運び出される。

「陛下って言うな名付け親」

「すみません。お帰りなさいユーリ」

優しい笑顔がタオルで隠される。

「やっと帰ってきたかへなちょこ」

ヴォルフラムがタオルの端っこを掴み、自分のほうへ俺の顔をタオルで引っ張るとがしがしと頭を拭いてくる。

「痛いって!」

「中で着替えましょう、陛下、猊下」

コンラッドが俺たちを促して城の中に入っていった。

「なぁヴォルフ、どうしたの?この飾り付け」

外だけでなく、廊下にも飾りつけがされている。

「ふふん、驚いたかユーリ。これはお前の国のクル…シミマスのイベントを眞魔国でやるために準備させたんだぞ」

「ヴォルフ、ちょっと間違ってる。クリスマス、だからな」

「うーんすごい数だね。商店街のネオンよりきらびやかだ」

村田が変なところで感心している。

緑と赤のストライプのリボンと小さなカラーライトが飾られ、血盟城を輝かせていたが今はまだ正午。電気代の無駄としか思えなかった。

「ところでギュンターは?」

いつもは俺が到着するといろんな汁を飛び散らしながらやってくるのに姿が見えない。

「アイツのことは気にするな」

「??」

コンラッドを見ても苦笑いしてるだけだ。

「このライトさ、昼間は意味無いんじゃない。電気代勿体無いよ」

「伝えときますね」

コンラッドが相変わらず苦笑いで答え、ヴォルフラムはなんだか気の毒そうな顔をしていた。

 


夜も更けてベッドに入ろうすると既にヴォルフラムが大の字になっている。その腕と足を反対側にずらして布団の中に入ろうとすると、ノックの音がしてコンラッドが入ってきた。

「もうお休みでしたか?」

「寝よっかなぁと思ったんだけど、うわっ」

ヴォルフラムの足が俺を蹴っ飛ばし、俺はベッドから落ちそうになる。

「見ての通りで寝らんねー」

「相変わらずの寝相の悪さですね。ねぇユーリ、見せたいものがあるんだ」

「何?」

「ちょっと付き合ってくれないかな」

何だろう?俺はベッドからおりるとコンラッドの側に近づいた。フワッと大きなマントにくるまれる。

「外に行くから暖かい格好をして下さい」

ブーツを履いて外に出る。馬に乗り、裏門から外に出て行く。

「寒くないですか?」

「大丈夫、ひっついてるから」

馬の前側に乗っているのでコンラッドが俺を包むような形になり風はあたってこない。背中から伝わる体温が心地よかった。
少しして馬が歩きを止める。

「着きましたよ」

コンラッドが馬から下り、俺を受け止め下ろしてくれる。確かこの場所には覚えがある。階段を上がり、眼下に広がる景色に俺は声をあげた。

「うわっ、すげぇ綺麗!!」

高台になっているこの場所は以前足を捻挫した時、連れてきてもらった場所。今は夜だから観光客もいなくて、辺りは明かりがなくて真っ暗だけど血盟城が光を放ち、まるで浮いているかのように輝いていた。

コンラッドが背後に回り後ろから手を伸ばす。

「昼間は明るい中で光ってたからよく分からなかったけど凄い数だね」

「気に入りましたか?ギュンターの力作ですよ」

「あれ、ギュンターが作ったの?」

俺は驚いて顔をコンラッドに向ける。

「作ったのはみんなですけど、魔動力源はギュンターです」

「そのギュンターは?今日見てないけどどうしたの?なんかヴォルフもほっとけ!みたいなこといっていたし」

「ユーリにこの景色を見てもらいたくて魔力をちょっと使いすぎてしまったらしくて…」

「あぁおじいちゃんなのに無理しちゃうから。大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。明日にはユーリのところに飛んでくるよ」

俺はもう一度身を乗り出して血盟城を見下ろした。

「ホント綺麗だなぁ」

ボキャブラの少ない俺はまた同じことを繰り返した。

「明日のクリスマスにはパーティーをやるそうですよ」

「じゃ今日ってイブか!でも眞魔国でクリスマス?だってあれ、イエスキリストの誕生日だろ。眞王とも関係ないだろうし」

「ギュンターとヴォルフが乗り気でね。猊下から地球のクリスマス話を聞いて準備を進めてたみたいだよ」

「また村田の奴。はっ、どうしょう。クリスマスって言ったらプレゼント交換だよ!俺みんなの分全然用意してないよ」

「大丈夫。ユーリがこの国にいてくれてるのがみんなにとって何よりのプレゼントだから」

「って言われても俺、全然王様らしいこと出来てないのに」

ため息をついて肩を落とす。

「そんなことないよ。さぁもう体が冷えてしまうから戻ろう」

「あとちょっとだけ」

コンラッドの体に寄りかかって背中を預けると腕を前に回してギュッと抱きしめられる。

「へへっ」

なんだか胸の奥からぽかぽかと暖かくなってきた気がする。

「ユーリ」

一瞬冷たいものが首筋に触れて、その冷たさに肩をすぼめて手で首を押さえてしまった。

「冷たいよ、コンラッド」

その手に唇が触れ、上を向いた俺の唇にゆっくりと重なる。ついばむように角度を変えて軽く重なっていた唇はしだいに深いものと変わっていく。

「ん、はぁ…」

呼吸が苦しくなってコンラッドから体を離すと優しく微笑まれる。

「さぁもう戻りましょう。寒いでしょ、風邪を引きますよ」

今のキスで体が火照ってしまい、寒さなど感じなかった。むしろ暑いぐらいだ。俺は自身の熱を気づかれないようコンラッドの腕からすり抜けると早歩きで、高台を後にした。

馬に乗ってから失敗したことに気付いた。来た時と同じように前に乗ったのだが、抱き締めるように回された腕を意識してしまう。背中にコンラッドの体温を感じ、俺は熱い体をもて余していた。だから血盟城の門をくぐった時正直ホッとしたんだ。
コンラッドが馬から先に降りて俺を抱きとめようとするのを一瞬躊躇してしまう。

「大丈夫、自分で降りられるから」

次の瞬間腕を引かれ、落ちるようにコンラッドの胸に抱き締められていた。

「ユーリ、顔が赤いよ。熱があるんじゃない」

耳元で囁かれて顔が赤くなるのがわかる。

「だ、大丈夫」

慌てて離れようとしたが、コンラッドの顔がかぶさり、舌が入り込んでくる。

「んんっ…っ」

口内をまさぐられ舌をとられてお互いからませあう。俺は立っていられなくなり気付くとコンラッドの腕にしがみついていた。

「すごく熱いね、ユーリ」

「…んぁ…誰のせいだとおもってんだよ」

なんだか嬉しそうなコンラッドを睨みつけるが効き目はないようだ。

「なら、責任をもって俺が看病しますよ。ヴォルフの横じゃ、ゆっくり寝られないでしょ」

確かにあの寝相のでは安眠出来ない。

「ね、ユーリ」

再度問いかけられ何も考えず頷いたのが間違いだった。

その夜、俺は安眠どころか体力まで使い果たしヘロヘロになってしまうことになった。



「うーっっ朝のロードワーク、絶対無理」

上着に袖を通し、背を向けているコンラッドに、恨みがましく訴える。腰が痛くて、とてもじゃないが走り込みなんで出来ない。

「クリスマスの日ぐらいゆっくり休んでください。はいどうぞ」

暖かいミルクを手渡される。俺は上半身を起こしてコンラッドからそれを受け取った。

「まったくサ、誰のせいだよ」

コンラッドがベットに腰掛けてにこっと微笑む。

「聖なる夜だけに....」

ちょっとまったぁ!!その続きを遮ろうとしたが遅かった。

「俺の性、なんてね」

クリスマスになんて寒いギャグを.......俺はミルクを持ったままその場に凍りついた。

「はははは、あれ?ユーリ、どうしました?」

なにはともあれ、Happy Merry X’mas!!

2007/12/25
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